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漫画紹介 [中川海二]ROUTE END ルート・エンド ~ 「死」に壊され、「死」に救われようとする

[中川海二] ROUTE END /ルート・エンド

 

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 まだ二巻までしか刊行されていない連載中の漫画です。連載先は王道の「少年ジャンプ」なのですが、「え、ジャンプでこれ載せてるの?」と意外なくらい地味な作品です。かなり大人向けの内容で、スピリッツとかモーニングあたりじゃないかと思ってたくらいです。ジャンプ、やるじゃん(「ジャンプ+(プラス)」だったが。そんなのあるのね、知らんかった)。

 

 テーマは、ズバリ「死」です。
 一応、謎の猟奇犯・シリアルキラーと、これを懸命に追う警察が話の基本フレームになるのですが、「一応」がついてしまうのは、それだけの話に留まってい ない、どっちかというと犯人や警察はむしろ背景、、、ではないな、何なんだろな、ストーリー進行のペースメーカー的にあるくらいの感じです。

 では、本当のメインは何かといえば、「特殊清掃人」の春野、そして女性刑事の五十嵐をはじめとする関係者の人生物語であり、それらはどれも「死」によって何らかの影響を受けてしまったものばかり。

 例えば、春野は、10歳の時に母親が首を括って死んでいるのを発見するのですが、おかあさんが死んで悲しいのではなく、猛然と怒りを覚えます。自分は 母親が生きていく理由になれなかったんだ、ということを考えてしまうからです。それが悔しい、腹立たしい。それをずっと引きずっています。確かにそれは強 烈な自己否定につながっていくでしょうし、重いですよね。五十嵐刑事も弟に自殺され、それが深い傷跡になって残っている。

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 ところで、特殊清掃人というのは、孤独死や事故死、犯罪死によって汚損した部屋を清掃するプロです。最近、需要多いみたいですね。春野がその仕事に就い て、橘という社長が言います。「お前、死にたいと思ってるだろう?」そして「死なないためにこの仕事をするんだろ?」と。

 

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 ここが深いのです。なぜ母の自殺がトラウマになってる人が、また好きこのんで他人の死の痕跡を露骨に触れるような仕事をするのか。でも分かるような気も するのです。あくまで「気もする」という確度の低いものですが、思うに、「他人の死」というものに打ちのめされてしまった者は、また他人の死を眼前におき つつ、その地点からやりなおしていかないどうしようもないのではないか?

死によって壊され、死によって救われようとする  

 それ以上漫画では書かれてないのですが、自分で延長線を書いて考えてみるに、、、

 遺品については遺族の気持ちを考えて大切に扱えと指導されることから、 死の重みはすわなち生の重みなのだろう。それを吐き気を催すような腐乱死体跡などを片付けつつ死者の生前を思う。

 

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 死んでしまえば醜悪とすらいえるくらい無惨な物体になってしまうのだけど、その人が生きていたときは、それなりに生の豊かさもあったのだろう。その落差が「生」でああり、その落差を感じ、その意味を噛 みしめることで「生きる」ことの意味を感じる。自分が生きていく理由を懸命に見出そうとする主人公にとって、死を見続けていた方がやりやすいのかもしれ ません。

 

 生というのは死をもっとも身近に感じたときに強烈に感じると言いますよね。登山家にせよレーサーにせよ、生を燃焼させようとすればするほど自殺行為のようなことになってしまう。生と死のギリギリのところでこそ、生はいっそう激しくスパークするのか。リストカットをする人も基本は同じなのかもしれません。日頃感じ られない「生きる意味」というプラスを感じるためには、「死」という強烈なマイナスを横に並べた方がわかりやすいのかも。

 同じ清掃会社に勤務する同僚は、死体現場で全裸でセックスをするというトンデモ行為に及ぶのですが、男性の方が交通事故で奥さんと子供をなくしてしま い、その自責の念が強すぎて、ついにはEDになってしまう。だが、死が濃厚に感じられる現場になると勃起でき、それを蜘蛛の糸のように手繰り寄せて生きるよすがにしようと、そのためのセックスであるという。そういうことってあるのかどうか知りませんし、「なるほど」と頷いていいかも分からないのですけど、 ここにも死によって傷つき、死によって救われようとする人がいる。

 平和な日本では、それほど死は身近にはない。僕もそんなに接したことはない。ただ今から30年近く前に検察修習で検死(死体解剖の立会)を二度ほど やりましたが、葬式よりも病院よりも「死」というものをマジマジと感じさせてくれました。

 もう、死体の「存在感」ってものすごいものがあります。解剖だから内臓とかも全部見るのですが、全体に理知的なムードでやるから、そこはそんなスプラッタ的にきゃ~  という感じではない。でも人が死んでいるという物体的、存在的なインパクトは強烈で、ちょっと形容のしようがないし、類例がないです。死臭というのも生まれてこのかた嗅いだことのないような独特のものがありますし。そのあたりの経験がちょびっとだけあるので「なんとなく」「分かる気がする」のです。


 さて、こういうテーマが出てきてしまうと、シリアルキラー対警察という図式も、やっぱ霞むのですね。偏屈で凄腕のデカとか出るべきキャラは出てきてるし、地味な捜査はやってるし。第一巻早々に犯人が登場するんだけど、これが宇宙人みたいな変なマスクかぶってて、なんか人間じゃないくらい、意思疎通不可能って感じもします。殺し方も死体ばらばらにして「END」という字型に置くとか完全にいっちゃってます。それなりにインパクトのある素材や展開なんですけど、でも「死と私」というテーマが凄すぎて「ふーん」くらいになってしまうという。

 他にも、変なキャラは出てきます。父親が被害にあって死ぬのだけど、それを大喜びしている息子(いい年だが)、趣味で神社作って神主コスプレやってるカウンセラーとか。なんかちょっと一本ネジがゆるんでるような人ですけど、でも意外とマトモに見えたり。


地味に淡々の怖さと重さ

 重厚なテーマあり、緊迫する警察サスペンスありなんですけど、しかし、見事なくらい地味です。これだけの素材がありながら、なぜこうも淡々と進んでいくのか?と不思議になるくらいです。いやしかし、このくらい全然ハラハラ・ドキドキしない作品も珍しい。

 ただ、それがこの作品の最大の魅力なのかもしれません。絵柄は、絵達者が多い最近にしては、それほど技巧的ではない、、、はっきり言ってしまえばヘタな 部類かもしれない(すんません)。衝撃的なはずの殺人現場も、腐乱死体も、あんまりリアルに描かれてなく、なんとなく粘土のおもちゃみたいにあっさり記号化されて描かれている。

 でも、その絵柄だからこそ、こういうテーマを淡々と読ませられるような気もします。もっとドラマチックな絵だったり、感動炸裂的な絵柄や構図だったりしたら、実体を伴わないカタチだけの花火がどーんとあがってそれだけになってしまうような気もする。

 そして、描かれる世界は、生か死かという極限状況ではなくまったりした普通の日常です。そしてその日常こそに意味がある。なぜって、リアルに考えていけば、「生きる」=「日常をおくる」でしょう?この平板な、何があっても平板化してしまう日常において、生きる意味=死の意味を考えようというのがこの作品だと思うのです。

 ぶっ飛んだシリアルキラーや死にとりつかれた人々も「ああ、そうか」と受け入れてしまう怖さが僕らにはあり、それが日常のもつ麻酔作用というか標準化作用であり、それがあるから、どんな事態になっても僕らは正気を失わずにやってられる。

 だけど、その標準化作用が効きすぎると、人々の中には自分の本当の気持がわからなくなり、ひいては生きる意味すら感じられなくなる人も出てくるだろう。そして麻酔から醒めるために死という強烈な異物をぶつける必要も又あるのかもしれない。

 

 だからこそ、何を書いてもあまりドラマチックに盛り上がりすぎず、日常がもつ鎮静作用が十分に感じられるこの絵柄は、むしろ正解なんだろうとも思います。実際、これをただの謎解きものにしてしまったら、大きなテーマが抜け落ちてしまいますしね。

 

 もっとも、謎解きも面白くなってます。一番のキーパーソンは橘という初老の男性であり、主人公の師匠でもあるのですが、この人と犯人がどっかでつながっているんじゃないか、「死」ということに誰よりもこだわっているのは、犯人とこの人物なのではないか?でもなぜ、何を、そこまでこだわっているのか?そこがミステリーになりつつ第三巻に続くってところです。

 

※これは本家未発表の書き下ろしです。

 

 文責:田村

 



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