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漫画紹介:史村翔・池上遼一「BEGIN」~「サンクチュアリ」から20年。日中米を表と裏から変えていく大風呂敷戦略が面白い


漫画紹介:史村翔・池上遼一「BEGIN」

~「サンクチュアリ」「オデッセイ」から20年。

~日中米のリアルでクソな国際政治を表と裏から変えていく大風呂敷が面白い

 

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史村翔と池上遼一
 現役日本一の絵師との評判も高い池上遼一氏の新作(2017年12月に3巻刊行)。
 しかも原作が史村翔氏なので、名作「サンクチュアリ」の流れを汲みます。「史村翔」って別名「武論尊」でもあり、「北斗の拳」の原作者といえばおわかりかと。作風によって使い分けているとか。シリアス系が史村名義(らしい)。

 

 池上遼一氏ですが、僕は小学校の頃、古典的名作「男組」(原作は「美味しんぼ」の雁屋哲氏)をリアルタイムに読んでたクチですのでもう半世紀近い。よくぞまだ描いていてくれてると思います。全作品語り明かしたいくらいですけど。

 

名作「サンクチュアリ

 さて「サンクチュアリ」はバブルの頃に連載されて、リアルな日本と連動してて、当時読者ファンは多かったです。

 周囲を見回しても、ばりっばりのビジネスマンとか、アンダー系の人達とか、本気で日本の(ヤバい)現実に向き合ってた連中にファンが多かったです。ヤバい現場の連中を夢中にさせるくらいリアルだったんですよね。ま、サンクチュアリはまた別に本格的に書きたいのですが(名言だらけで)。

 サンクチュアリ」の頃の日本は、細川政権とか出来てて今の日本の10倍以上面白かったです。ただ、漫画内では自民党社会党と組むことをきっぱり拒否するんだけど、現実の日本はそこで連合してしまって、あとはダラダラ。思えばあのあたりが分岐点だったのか。

 

 「サンクチュアリ」の流れというのは、簡単にいえば、「どうやれば日本を甦らせられるか?」という一連のテーマです。チマチマやってても埒はあかない、「こすりゃいいんだよ!」とドーンと途方もないスケールの絵図をぶち上げる話だけど、裏社会とか世のカラクリとかデテールが異様に説得的だから面白い。池上氏の画力も大きいです。

 

サンクチュアリ」のあとに、小編の「オデッセイ」が続編として出されました。「サンクチュアリ」の頃はまだ日本の処方箋が見えやすかったのでしょう。権力握ってるジジーどもを蹴散らして、国民がちょっと正気に戻ってくれたらOKさって感じ。実際そうだったし。ところがどんどん腐食は進んで、不正な権力構造がかなり強固になって、ちょっとやそっとでは崩せなくなったのが「オデッセイ」。この頃は「サンクチュアリ」のような爽快感は少なく悩みが多い。

 

20年後の「BEGIN]

 その後20年ほど沈黙していたのですが(「HEAT」という武論尊名義の作品はあるが、シリアスな政治モノではない)、ついに黙っていられなくなったのか、「Begin」が出てきたという感じ。

 しょっぱなから「日本人は劣化したのか?」という問いかけがバーンと出てきて、「こうすりゃいいんだよ」という途方もない話が出てきます。でも、その方法論は、システムは概ねそのままで人間だけ入れ替えるという、「暴力的世代交代」ともいうべきサンクチュアリとは違って、もうシステムそのものがクソだからダイナマイトで爆破してしまえって視点ですね。

 

 また、サンクチュアリはバブルの頃だったので、「金があるほど人間(日本人)はダメになっていく」というのがテーマで(当時そう感じてイライラしていた人は多かった)、国内政治を扱っていながら、「生きるってなんだよ?」という個人的な問いかけでもありました。だからなのか、主人公の北条と浅見のキャラや言動が胸がすくほどにひたすらカッコ良かった。

 でも、「Begin」では個人というよりも、日中米の国際関係がメインになってるので、主人公の二人は、それほど爽やかではないです(てか名前も覚えてないくらいで)。池上氏の画風の微妙な変化もあいまって、北条・浅見ほど魅力的な造形ではないです。また、影の大物や敵方も、伊佐岡や市島ほどキャラがスッキリ見えない。

 

 なんか読めば読むほど、「サンクチュアリは偉大だったな」と思ってしまうという、イマイチな三枚目のアルバムを出したバンドみたいに、うーん、いいんだけど、でもデビューアルバムのほうが好きだなって感じに似てる。

 

 でも冷静に考えて、そんなにこの作品が劣ってるわけではないです。まだ3巻なのにここまで大風呂敷広がるスケールはすごい。サンクチュアリの3巻くらいだったら、まだ北条が関東の極道を制圧したり、浅見が国会議員になってるくらいでしたからね。

 

 なのに、こちらが今ひとつスッキリしないのは、作品のせいというよりも、背景になる現状がそれだけどーしよーもなくなっているからだと思います。サンクチュアリのバブル期は、まだ日本が経済的に強かったので、アメリカも一目置いていたし、中国もひ弱だった。しかし、経済力が落ちた現在、アメリカの奴隷的な支配構造が露骨になるわ、中国の覇権も強大になるわ、反比例して日本の当事者能力が低下している。

 その悩み多き泥沼的状況で、利害も見通しも複雑になってきているから、作品自体もスッキリしなくなるのでしょう。

  スカッとした作品を作りにくい今の状況を考えれば、日本の(国際)政治をこれだけリアルに、大風呂敷広げて動かしていく漫画は他にそんなにないですから、読む価値はあります。絶対値でいえば、かなり面白いし(ある程度国際政治の基礎知識がないとわからんかもしれんけど、常識レベルで足りると思う)。

 

 

主人公設定=地獄からの生還~カンボジア天安門

 サンクチュアリの前史が、カンボジアのクーデターで地獄に叩き落とされた日本人駐在員の子供(主人公)という設定なのに対して、Beginでは、中国の天安門広場の虐殺に中国人の若者ととも居合わせた日本の若者二人(主人公)という設定です。中国、そして大国の無慈悲さ、恐ろしさを骨の髄まで知っている。

 

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 後日、その二人のうち一人は、国家権力の奥深く、公安のその又裏の非合法セクションを仕切っている。日本版CIAの若きリーダーみたいな。もう一人は、もとは医者なのだが、力がないとダメだと思って山口組がモデルと思われる神戸山王(この名前はサンクチュアリ以来よく使われてますね)次期トップに個人的に知り合い、極道になって頭角を表す。

 

 その二人が、アメリカの奴隷化している日本をなんとかするために沖縄に行き、それぞれの思惑で騒ぎを起こす。やがて知り合って、意気投合して仲間になる。

 

 このマンガの面白さは現状認識のデテールと、絵図の描き方です。頭の体操というか、「なるほどね」という考えたこともなかった方向を示すのが面白いです。

 どこにどんな勢力があり、どこにどんな利益を持ちかけて話をしていくか。

 

現状認識

まず現状認識として、アメリカは日本を守る意思も義理もない。自国に有利なように中国と取引をするだろうし、日本はコマとして利用されるだけ。また、沖縄に負担を押し付けて本土はOKではなく、日本全体が沖縄のような基地的存在である。

 

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じゃあ、どうする?

 いきなり中国将校を射殺しちゃうとか~台湾海軍と組むとか

 例えば台湾を利用する。台湾も中国の影にナーバスになってる。中国も迂闊に踏み込めない。尖閣諸島で調子コいてる中国海軍の将校を,いきなり遠隔射撃で撃ち殺してしまい、漁船に乗って台湾領海にまで逃げ込む。

 

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官僚にしておくには惜しいくらいの肝っ玉

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中国を怒らせておいて、威嚇の大船団でやってきたら、台湾政府からも台湾海軍がやってくるという(台湾のリーダーは天安門時代の仲間という設定で、話を通しておいた)。

 

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基地反対運動を盛り上げさせる計略

 たとえば中国のハニートラップにひかかった米軍兵士を脅迫して、オスプレイを操縦して墜落させろ、反対運動を臨界まで盛り上げさせろとか。とにかく一触即発にもっていって、ドカンと吹きとばせ、それから次の展開に進めるんだと。

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中国を裏からひっくり返す

 一方、中国は中国で内部に大きな矛盾を抱えている。農村に生まれたら一生貧乏確定というウルトラ格差社会であり、はみ出した連中が黒社会を作ってる。この中国の黒社会に日本のヤクザが話をもちかけ、おめーらが中国をひっくり返すんだよと焚き付ける

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 また、共産党幹部の強力な金の力を無力化するために、香港や中国の富裕層を片端から拉致って、資産もろとも海外に逃亡させるとか。

 

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 また裏CIA的な主人公は、日本の妖怪のような黒幕に接触し、利権をぶら下げ、俺を飼ってみろよと持ちかけ、政界に出馬しようとする。

 

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  その駆け引きが面白くて、最終的に日本から米軍を叩き出すのだけど、その一歩として横田など全米軍基地を沖縄一箇所にまとめろとそそのかす。そんな馬鹿なことして何になるんだ?と問われて、本土から米軍がいなくなりゃ、北方領土の話も進展するだろ?そうすればお前の大好きな利権がいくらでもできるじゃないか、そこで稼げばいいだろ?とか。

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核か徴兵か

 国民に対しては、自立して米軍叩き出すなら(日米地位協定の破棄)選択肢は二択、核か徴兵のどちらかで、本人は徴兵一択だと。

 

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しかし、その徴兵制度が面白くて、「40歳以上」に限定する。若い連中は徴兵しないというユニーク過ぎる持論をぶち上げ支持を集める。ちなみ、これ前に自分がエッセイで書いた「40歳定年制」の提言と似てて、やっぱそうだよなーとか思った。

 

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 話は香港の民主化活動家と接触し、彼らとも提携する。

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 だが、中国本家の逆襲があるというのが現在のところ。中国の権力者を作っている最強一族があり、彼らが天安門を仕掛けて民主化を潰したという。

 

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 とまあ、「そんな馬鹿な」的な政策(?)論があるし、「考えすぎて動けない馬鹿(政治家)」なんかいらねえと、自分らでどんどん火を付けて、コトを大きくしていく実行力というか、ムチャクチャぶりが面白いです。

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 荒唐無稽のようでいて一理あったりして、思考のトレーニングにもなります。

 日本の政治家やマスコミなどは、無能過ぎて当事者能力もないのか、ほとんど出てこないところも良いです。

 

 まだ出てこないけど、あとはロシアと北朝鮮にどんな「おいしい話」をもっていって、首を縦に振らせるかですねー。次巻以降で出てくるかもしれません。

 

 というわけで、作品の完成度としては、まだよくわからないんだけど、なかなか刺激的な作品です。リアルタイムだしね。

  感じとしては、史村翔名義のサンクチュアリのシナリオなんだけど、読み味は武論尊名義の「HEAT]の方に近いかもしれません。

 

 

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 ※これは新規描き下ろしです

 

 

 

 

 

 

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