音楽:キース・ジャレット/ケルン・コンサート 甘露の雫(しずく)
音の甘露な雫(しずく)
午前零時のオン・ザ・ロック
今回はJAZZですが、JAZZってジャンル分けしていいのか?ただの「音楽」、あるいは「美しい音のしずく」とでも言うべきか。
この曲は知ったのは、FMの深夜放送です。なんかの番組のテーマ曲になってた時期があって、演奏者も曲名もなにもわからないまま「うわ、なんだ、これ」って思った。
後になって、それがキース・ジャレットのケルンコンサートのパート1の冒頭だとわかりました。なんでわかったんだっけ? たしか視聴者からの問い合わせが殺到して、番組で教えてくれて、全部流してくれたからかな?
でも視聴者から殺到するくらい良かったんですよね。
それまで別にジャズやピアノに興味もない僕が、てか15-6歳かそこらで何もわからないクソガキだった僕が、どっちかといえばうるさいロック系に走ってた僕が、それでも、いいと思った。問い合わせはしなかったけど。
とりあえず、YouTubeに消されないことを祈りながら、最初の30秒だけあげておきます。と思ったら、速攻ブロックされてましたー。だーもー!著作権申しててるUMGの阿呆が、せっかく宣伝してやってるんじゃないかよー。いろいろやって、窮余の一策、バックグラウンドに邪魔にならない波の音を入れました。多分音の波形の自動照合してるはずだからと。今度はいけたみたいです。
後日注:やっぱ消されてしまいました~。
しかし、探してたら冒頭だけ原曲をきれいに聴けるのがありました。 「著作権者」であるユニバーサルから宣伝音源がYouTubeにあがっていました。原曲の最初の45秒は聴けます。
付帯情報
キース・ジャレットのケルン・コンサート、二枚組のアルバム。歴史に残ってる超有名作品で、収録はなんと1975年だから40年以上昔の話。
ドイツのケルンでのコンサート。体調最悪、会場のピアノがまた最悪という笑っちゃうような悪条件マックスで、キース・ジャレットはブチ切れて、そして吹っ切れて、この神の演奏になったという伝説つき。
二枚組4曲。レコード各片面がまるまる一曲。
曲名なし。パート1とかなってるだけ。聞いたらわかるが、曲名必要なし。曲目?せからしか!うざい!って感じ。
全~部、即興演奏。構想ナシ、打ち合わせナシ、作曲ナシで、その瞬間に思いついたフレーズを弾いていくだけという完全インプロビゼーション。
コピーしてる人多し
You Tubeで探してたら、原曲はないんだけど、これを自分で演奏している人が多かったのでちょっとびっくりしました。こんな他人の即興演奏、完コピするか?しかもコンサートでやっているという。それだけの名盤だってことでしょうね。
Tomasz Trzcińskiって方が全曲完コピ、、というか、自分なりのフレーバーをつけて演奏しておられます。原曲を知ってるこっちとしては、聴いてて「あー違う!」とか思っちゃうんだけど、でも、これはこれで一つの解釈だし、作品だなあって思います。
リンク張っておきますね。これ、最初にクリックすると、曲のどっか途中にランダムに飛ばされるみたいです。また最初にリセットしてから聴くと同じ曲部分になります。
この人、同じ曲でいろんなバージョン弾いてるみたいで、YouTubeで出てくるものも一つではないです。
何がいいの?
「うわ、なんだこれ?」とガビーンときたのは、パート1の冒頭部分です。てか最初はそこしか放送してなかったので、そこでガビーンとくるしかなかったんだけど。でも、全部何度も聴いて、他の部分も、また他の曲もいいんだけど、神がかってるのは最初の数十秒、いや十数秒くらいだと思います。
今でもときどき聴くし、流しっぱなしにするときもあるけど、一番テンションがあがるのが冒頭の1分くらいです。それも一番最初にピークが来ます。
この良さを言葉で言えというと、ものすごい言語能力要りそうだけど、
なんでビビッときたかといえば、もちろん圧倒的に気持ち良かったからですが、なんで気持ちよくなるのか?とさらに言えば、まず「音」。
音質
ピアノが最悪(高音が金属的だったらしい)なのでペダル踏みっぱなしにしたという事情があったらしいんですけど、怪我の功名だかなんだか、このペダルによるリバーブ(残響)音がいいです。
すごーく良く響いてて、それがこの曲を非常に特徴づけています。
メロディ
次に冒頭のメロディ。どってことないんだけど、フレーズが斬新というか、意表をつかれるというか、メロディメロディしてない。歌メロとして作曲しようとしたら、こんな音程の連なりって、まず出てこないんじゃないかな。
なんせ一番も二番も、イントロも、サビも、リフもなんにも無いんだもん。絶えず違ったメロディ、違ったリズムがとりとめもなく延々続いていく。
この曲が僕に与えた影響は大きいのですが、一つは、ああ音楽ってこんなに自由なんだってことです。イントロがあって~、一番歌って~、サビがきて、ギターソロが入ってって「様式美」はあるんだし、わかりやすいんだけど、でも、そうである義理も必然性もない。ほんと垂れ流し(言葉は悪いが)みたいなものでもいいんだと。
後に下手糞作曲するようになってから、この様式美がうざったく思えることが何度もありました。なに?この仕事みたいな手順は?って。主メロとサビをつなぐ間とか中々思いつかなくてあーうーやってるとき、こんな「手続き」みたいな部分要らないだろ?って馬鹿馬鹿しくなることもあった。それもこれもキース・ジャレットのこの曲を聴いたからです。前々から固定観念ってクソだなって意識はあったけど、「いいじゃん、別に」でそれが強化されたというか。
後に、TOKYO No.1 SOUL SETというユニットを知ったとき、メンバーの渡辺氏が「メロディ」担当で、作曲とか「曲」の形にするのは無駄で、一番いい部分だけ歌えばいいんだよって言ってて、そうだよなーと思った。
さて、この曲の冒頭部分、これは旋律やメロディで語るというよりは、なにかを「描写」しようとしているような気がします。いや、描写しようという「意志」すらないかもしれない。ただ純粋に、音の美しさ、そのつながり、響きの奇妙さ、不思議さ、面白さ、素晴らしさ、それだけを求めてるような感じ。音楽ってそういうもんだけど、ここまで中々吹っ切れない。これを聴くと、なにかのテーマや想いを「音で表現する」こと自体、なにかしら「不純」なものにすら感じられたりもします。
タッチ
これ今、改めて聴いて思ったけど(他の人の演奏も聴いてなおのこと)、この優しい、静かなタッチがいいです。特に弱い部分のタッチがいい。最初ちょっとアタック強めに弾いて印象づけて、すーっと去っていく。
楽器って大体そうだと思うけど、ゆっくり小さく弾くのが一番難しい。ガーン!とアタックかけたり、タラララララって高速で弾くのは、難しいけど、でもまだ楽。誰でも弾けるようなゆっくりテンポの弱い音というのが、ニュアンスやセンスがモロに出るから難しい。そういえば、XのYOSHIKIがファーストアルバムの最後の曲、Unfinished(めちゃ好き、一番好きかも)のピアノの最後の一音を録音してて、どうにも気に食わなくて、その一音を録るために丸一日かかったと言ってたけど、なんとなくわかる。
リズム
冒頭部分のリズムは、左手でトーントーンとやってるけど、このタイム感が好きです。ちょうど心臓の鼓動と同じくらいのリズムで、このリズムで刻まれると人はすごく心が落ち着く。聴いてるうちにどんどん心が安らかになっていくんだけど、一つにはこのリズム感があると思います。
と同時に、右手の主旋律の方ですが、結構ランダムなリズムです。急に早くなったり、もたったり、意図的に散らしてる。
その対比がよくて、それが何かの情景を訴えかけてくる。
緊迫感
とても静かな曲(途中でどんどん曲想が変わるが)で、心が落ち着く曲ではあるんだけど、一本、張り詰めた緊迫感があります。それは多分、これが完全即興演奏だという点に基づくのでしょう。
いったいどれだけの集中力があったら、20分以上も即興でこのレベルの演奏ができるのか、想像もつきません。自分のヘタクソギターでもインプロメイン(てか他人の曲覚えるのが面倒くさい)ですけど、大体が手クセです。95%はそう。そんな今まで考えたこともなかった新しいメロディや弾き方を瞬時瞬時に思いついて、つなげて、なんて出来ないです。ミラクルに出来る時があるけど、それでも1分も続かない。集中力が切れる。
それをこのキースおじさんは延々やって、それも毎回コンサートのたびごとに変えて、どんだけバケモンかって気もします。まあ、JAZZは基本即興だけど、それでもバンドでやれば他のパートがソロやってる間は息がつける。
その集中力=キリキリと一点に焦点を合わせる感じが全編に漂っていて、それが一種独特の緊張感を与えてます。聴いてると、「あ、ここ考えてるな」ってところもあるし、次の展開にいかずに、同じようなフレーズを助走のように二度三度とやって勢いをつけてる部分もあったりして、なかなか面白いです。
まあ、聴いてる分に面白がってればいいからいい気なもんですけど、演る側は大変でしょうねー。しかし、大変なだけではなく、このレベルが出て来るわけですから。でも、即興だからこそ出てきたってメロディも多いんじゃないかな。
イメージ
曲から醸し出されるイメージですが、これは人それぞれでしょう。
僕の場合、最初にボーンと目の前に浮かんできたイメージは、深夜放送で聞いたということもあるんだけど、深夜のバーのオン・ザ・ロックです。
深夜らしい、心を鎮めるような静寂感があって、心地よくほの暗い照明があって、よく磨かれたマホガニーの一枚板みたいなカウンターがあって、そこにタンブラーに氷、そして芳醇で琥珀色のウィスキーかなんかが注がれる。
なんかサントリーのコマーシャルみたいなイメージなんだけど、もろそれ。
不思議だよな。まだ16歳かそこらでウィスキーなんかろくに飲んだことなかったんだけど、でも、そのイメージでした。
曲が始まってすぐ、10秒目あたりに急にリズムが乱れて早くなる部分があるんだけど、それが又オン・ザ・ロックのイメージで、なにかといえば、タンブラーの中の氷が溶けるに従ってコロンと位置を変えるのだけど、そのイメージなんです。
すごく心地よく静寂で、すごく気持ちよく考え事に浸っていく。
それがこの曲を最初に聞いたときのイメージですし、今なおそのイメージは続いてます。
ちなみに、中学時代の友人のヒラツカ君も、当時この曲を知ってて、「いいよな、あれ」「すげえよな」と意見の一致を見て、さらにその良さを言葉で表そうとしたときに、出てきた比喩がふたりとも同じウィスキーでした。僕らのなかでは通説。
だから、この曲を聴くと、未だに、ウィスキーが無性に飲みたくなるのです。
考えごとの愉しさ
夜になると眠れない、不眠だとか、不安だとか、迷ったり悩んだり怯えたり、、ってあるかしらんけど、でも、一人で「考えごとにひたる」のは悪いことではないし、気持ちいいですよ。
中学高校の頃からずっとそれやってて(意識的に続けようとかは思ってないけど、自然に)、考えるのは好きだし、楽しいし、もしかして人の最大の快楽(のひとつ)かもしれません。
何考えてるの?というと、そんな大したことじゃないんですよね。あんま自分のこととか生活とか成績とかは考えなくて、そんな「雑務」はうるさい昼にやればよくて、静かに輝く真珠のような深夜においては、もっといいこと=他愛のないこと、です。
例えば、自分が「ああ、いいなあ」と思う情景、風景。絵にして描きたい、飾っておきたいような風景。あるいは国木田独歩が「忘れ得ぬ人々」で描いたような、なんの意味も事件性もないんだけど、なぜか忘れないで一生覚えている時空間の感じとか。
それは例えば、竹やぶに時雨が降るとき。竹藪に雨が降るときって、不思議な音がするでしょ?さーっと一面広がるというか、広がったまま天からゆっくり降りてくるというか。その音をリアルに思い出したり、再現したり。目にも鮮やかな青竹の緑とか、すっと後ろから吹いてきた涼しい風の皮膚感覚とか。
あるいは、小学生の頃に通学していた路の風景とかさ。なんでこんな画像記憶が自分の頭の中にあるのか不思議になるような、覚えていないけど覚えている、どっかの町の路地裏の風景とか。
子供の頃になんだかんだ夢想して遊んでたけど、その続きをやってるだけです。
気持ちいいですよ、おすすめです。
そして、この曲を聴くと、スタイバイ完了になるのでした。
これは新たな書き下ろしです