オーストラリア/シドニーから。
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漫画紹介:[田辺イエロウ]BIRDMEN ~屈折少年の屈託のない青春

[田辺イエロウ]BIRDMEN

~ド定番要素だけで構成されながら、全く新しいテイストの物語

 

2013年から少年サンデーで連載開始で、まだ連載中。全然知らなかったんですけど、これも面白いです。

 

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構成要素は超がつくくらい定番ばっかり。
・背中から翼が生えて空が飛べるようになる
・超人(鳥人)が5人集まるゴレンジャー的な戦隊モノ

・男4人に紅一点というこれまた定番
・中学生の青春モノと中坊的な心のあれこれ
マッドサイエンティスト組織が人体実験を繰り返し、人類の上位互換種を作り上げる

どれもこれも既視感バリバリなんだけど、これらをミックスジュースのようにしてみたら、あら不思議!まったく新しいテイストのものになって、そこが面白い。

 

主人公のキャラ造形~屈折少年の肖像

まず主人公がイイです。頭の良さが空回りしてクラスで浮いて(沈んで)いるよくある中二病重篤患者であるけど、自分がそうだということを理解できるくらいには賢い。だから自分の考えを自分で批判的にトレースして、自家中毒ループになって、スパイラルにへこんでいく。

ありがちな。ま、誰でもそうなんだよね。

 

 しかし、この自家中毒モノローグがなかなか面白いのだ。

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という感じで空廻ってるわけです。

そういう少年がある日突然超人になってしまうんですから、さあ、大変。

 

普通の超人モノって、大体人間の素材は健やかで素直な人がそうなって、「よーし、人類のために戦うぞー」って設定です。人間の素材に問題アリにしちゃうと話がややこしくなる。問題あるなら大悪人や敵キャラにしちゃったほうがいい。

だから、屈折しまくった中二病少年が超人になったらどうなる?という設定は、実はあんまりない。

あるとしたらエロゲ的にいきなり力を利用してモテモテになって可愛い女の子ハーレムを作って、、とか、そういう系統はあるけど、それはそれで全然リアルじゃないし、そういう「目的」で描かれているわけでもない。

 

でね、この主人公の造形がいいのは、屈折してるけど卑屈でも邪悪でもない、それどころか本当にかなり聡明でまとも。そうなる家の事情もあるし、それを他人の責任にすり替えることの卑怯さも本人もよくわかってる。

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そして屈折してるけど反面ではメッチャクチャ気が強い。ダメっぽく見えながらも喧嘩を厭わないし、腕力はないけど知的に戦える。

小学校時代のエピソード

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屈折少年ヒーローの系譜

その昔は、少年ヒーローは健康な男女でありました。心に屈折や鬱屈をためていないという。明智小五郎の「小林少年」にせよ、鉄人28号の、、誰だっけ?の少年にせよ、まあ、清く正しい少年でありました。

 

次に戦後日本を象徴するように、第一の屈折として貧困がきます。ヒーロー、ヒロインは最初貧困でなければならないの原則、みたいな。巨人の星星飛雄馬もそうだし、あしたのジョー矢吹丈も貧困どころか孤児院を脱走して「風来坊=ホームレス=ストリートキッズ」だったし、「ガラスの仮面」だって初期設定ではラーメン屋でバイトして頑張る女の子だったし。

そしてライバルは、ほぼ大体「金持ちの息子・娘」であり、金持ち=敵方という、すげーわかりやすい構図があった。それがイヤな奴である場合もあるが、いい奴である場合もある(花形とか亜弓さんとか)。

そのあたりは、当時の日本人の心象を反映していたのかもしれません。「ボロは着てても心は錦」というか、貧乏=自分=でも大丈夫、絶対うまくいくから、って言い聞かせるように皆生きてたんじゃないかなー。

 

しかし、90年代後半から日本は「心の時代」になるのでしょうか?「鬱」という言葉が日常使われるようになりました。それまでは躁鬱病はあったけど(気分の波が激しい)。鬱だけってのは少なかった。あったとしてもノイローゼと言われていた。

 

そんな時代のさきがけとなったのは、うーん、多分エヴァンゲリオンのシンジくんじゃないでしょうかね。ウジウジいけてない少年が主人公であり、そのトラウマがドラマの基調をなす。でも、登場人物全員がなんかトラウマ持っていて、それが物語に深みを与えている。メカとか斬新でカッコいいし、異様にマニアックな設定・展開の作り込みなど当時としては破格のレベルだったと思うけど、その本質は、哲学ドラマ、コミュ障ドラマ。太宰治の「生まれてきてすみません」的な心象を、先端アニメの世界に広げていったかのような。

 

以降、心に屈折を抱える少年が主人公になる系譜が出てきます。

現在連載されている、「東京喰種(グール)」のカネキケンも、イケてないっちゃイケてないのでシンジ派なのかなーって気もします。

 

しかし、逆にふっきってクールな派閥もあって、「亜人」の永井圭なんかがそうですね。めっちゃ賢い少年なんだけど、賢すぎて且つ目的志向なので、およそ共感を呼ばなさそうな、嫌なヤツになっているという。イヤな奴が主人公になるというのも珍しいんだけど(だんだんイヤじゃなくなっていくけど)。

そして、このバードメンの主人公もそうなのかなーって気がします。

ただ、最初は単に屈折してただけなんだけど、それが仲間が増えることで、本来の屈託のない少年ぽくなっていって、さらに屈折を生み出していた聡明さが現実にマッチしていって成長していくあたりは、結構読ませます。

 

屈折アリと屈託ナシ~青春のアホアホな爽やかさ

さて、こんな主人公なんだけど、あとの4人はそこまで屈折してない(いろいろあるんだけど)。全然タイプが違う5人が一緒にやっていく間に、少年時代独特の屈託のない笑える爽やかさが出てきて、それがいいテイストになってます。

 

こんな感じの少年たちが

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いきなり変身しちゃったら、こんなことになる

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先輩に変身の仕方を習うのだが、いちいち服脱いでからやるという間抜けなところから始まるのも考えてみたらリアル

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さらに俺ら子供だけじゃ手に負えないとなって、信頼できる大人の科学者が欲しいとなる。

 

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で、チーム結成みたいにやるのだが、なんだか普通のファミレスの楽しい風景に、、、

 

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てな感じで、いちいちケラケラ笑えます。戦隊モノって、仲間との集団行動や生活がでてきますので、意図せずに「部活ノリ」になっていって、そこで間抜けないい味出したりします。

 

特徴と展開

 この漫画、他にもいろいろな特徴があります。例えば、次々に付加される(明らかにされる)設定

・もともとはEDENという極北の学術都市(ほとんど科学武装国家)のマッドな研究(クローン作ったり、人間改造したり)というところで生み出された「セラフ」という改造人間であったとか(仮面ライダー的なそれですな)

・なぜか人間の助けを求める声が聞こえてくるという属性

・過去のトラウマだかなんだかが顕在化する、エヴァの「使徒」みたいなブラックアウト

・成長するに従ってセラフ同士の意思疎通がテレパシー的に出来るようになり

・ひいては他者の脳波に干渉できて、他人の記憶を書き換えることが出来るようになったり

・世界中にセラフがいて、ただの実験動物的な存在から、本来の人類の上位互換種としての地位を得るために動き始めたり

・その中でもさらに特殊な能力があったり

 

世界各国のセラフに会いに行き、自分らの居場所や生存を確保するにはどうしたらいいかという、すごい話になっていきます。

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 いや、こましゃくれた中二病患者がこんなに立派になって。てか、もともとの才能が時と場所を得て開花したというか。

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最新刊では、世界中の仲間を探しながら旅を続け、ドイツあたりの古城にいったり、中東アラブの王子様に会ったり、、てな感じです。

 

面白いんだけど、だんだん展開がひろがってきて、作者にも収拾がつかなくなってる感もなきにしもあらず。

 

 でも、シリアスハードな展開にいきつつも、こういうのんびりした情景もふんだんにあって、そのあたりの妙なバランスがいいです。

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 非常に読みやすい絵柄といい、テンポのいい展開といい、何かの極に引っ張られすぎないで、相反する要素(ドメスティックな日本の中学生の感性と人類と種との共存戦略というハードSF)をかなり上手に織り交ぜてるバランスといい、読んで損はしないと思いますよ。

なによりもストーリー展開が独特で、先の予想がつかないのがいいです。「ああ、あれね」って感じにならない。

 

それと、陳腐だけど、やっぱ空を飛べる快感が全編にベースとしてあって、それが読み味を良くしていると思います。いいなー、飛びたいなーって。

 

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