オーストラリア/シドニーから。
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COPPELION コッペリオン  311の3年前から~シリアス✕ポップのブレンドが絶妙な野心作

[井上智徳] COPPELION コッペリオン

 

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  この漫画、26巻まであって、アニメ化もされてるけど一般的にはそんなに知名度高くない。僕もたまたま知ったくらいです。でも、この作品のなかに、原発をとりまく問題状況はかなり指摘されているのですね。でも話題にならないという。ならば僕がここで話題にします。いいよ、これ。
 

311の3年前から連載していた

 原発メルトダウンして東京は人が住めないエリアになったという設定で描かれたこの漫画、「いかにも」て思うかもしれないけど、実は2008年にヤングマガジンで連載が始まっています。つまり2011年の東北地震の3年前に既に問題提起されていた、という事実に注目すべきかと。

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 一部の人を除いて、誰もそんなこと考えもしなかった時代に、こういう構想を練り続け、時代が作品に追いついたあとにおいても、なおも軸がブレずに連載を続けて完成させている、その先見性と構築性は素直に凄いと思います。

もう一つの日本
 設定と展開は、、なんか羨ましくなってしまうような「もう一つの日本・世界」です。せめてこのくらい日本も開けてくれていたらと。

 初期設定で、原発が東京(お台場)にある。

 福島や敦賀など危険は地方に押し付けて、美味しいところだけいただくという卑怯なことはもう止めようと国や財界や都民が決断した。民法に「危険負担」という概念がありますが、「利益の帰するところ、危険もまた帰する」というクソ当たり前の原理なんだけど、このレベルですでに夢物語になっているのが悲しい。で、その東京原発で大事故が起きて、東京は廃墟に。しかし、自衛官など関係者の決死の努力で石棺化には成功してます(これも羨ましいなー)。

 

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 それから20年、SF的に飛躍するのですが、遺伝子操作の試行錯誤の末に放射能に抵抗力をもつ個体が作られ、今なお東京の残留する人々を救出する部隊が編成される。

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萌えとポップ要素

 でもって、ここがポップさ全開で、「萌え」のくすぐり要素なんだけど、主人公達がなぜかチャーミングな制服の女子高生だったりするわけです(笑)。

 このシリアスな話に、JK出しておけばウケるだろう的なポップさを強引に合体させる。しかも陸自の兵士のくせにJKのミニスカ制服だわ、カタログのように全部制服が違うわ「サービス」満載です。

 また放射能抵抗だけではなく種々の超能力的なエスパー対決になって、スペクタクル活劇要素も入れていく。どんどんハリウッド的に荒唐無稽になっていくんだけど、この凄まじいゴッチャ煮設定をどう料理して読ませるかがクリエーターの腕の見せどころです。

 ここでシラける人はシラけると思うのですよね。この深刻なテーマで「不謹慎だ」とかいう人。でもね「謹慎」してたって物事生み出さない。この人の世でなにかを産み出すためには、ある種の下世話さは必要だと思います。このあたりは、最初この駄文を載せた本家のエッセイ「ポップとディープ~マンガの優秀なメディア特性」で書いたのですが、真面目な議論をする人というのは「ポップさ」を舐めてる人が多いと思う。ロックバンドやっててそのあたりは四苦八苦して、片や弁護士会でちょこちょこやってた僕からしたら、ポップさが無かったら誰も見向きもしない、意味ないよという持論があります。

 真剣で真面目な議論を世間に訴求したかったら、カッコよく、チャーミングである必要がある。ダサいやつが言ってると、その主張までダサく見えてしまうというのが本当のところでしょ?

 

 だからこの作品で萌え的JKを出したことを僕は肯定しますし、そこでシラけたりしない。僕のように見栄えのしない中高年ばっか出てきて、難しい話を難しく言ってるだけだったら、たぶん僕でも読まなかったかもしれない。こういうカタチに料理してくれてるからこそ読めるというのは確かにある。ただ、そこでポップなギミックをかました以上、真面目な議論との整合性がつかなくなってぐちゃぐちゃになるリスクもあります。

 

 でもって、僕の意見としては、この作品はゴッチャ煮を上手に料理してます。萌え的なJKなんだけど、萌えだけで全然終わってない。大人たちの腐ったご都合主義で歪められた社会、その影響を受けて子供たちもまだ歪むんだけど、同時に若さがゆえの透明で強靭な感性は健在であり、それが大人たちに広がっていき、ついには世界を救うという、これまたおとぎ話っぽいんだけど(でも結局そういうことだと思うよ。過去の歴史もそうだったんだし)、若さが尊いのではなく、「しがらみが少ない人間が一番素直に物が見えるし、行動できる」という一般則どおりの話で。

 

国家間の鳥獣戯画
 その過程で、あらゆる問題点が戯画的に出てきます。まずは世界的な原発産業(日本の原発ムラなど田舎の支部に過ぎない)の利権構造、各国家間のエゴ。このあたりコスプレ的な国際会議でいかにもマンガなんだけど(フランスがルパンの格好してるとか)、でも分かりやすい。なんでも軍事介入して話をよけいにややこしくするだけの糞アメリカとか。

 

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 そして一番の悪党は実はオーストラリアだ、というのも新鮮な指摘です。そうなのよね、オーストラリアは原発ないんだけど、イノセントか?というと、ウラニウム輸出して儲けているプチ死の商人的な顔もあるのですよ。

 

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 ウラン燃料で原発やればプルトニウムが出来るし、プルトニウムさえ持ってれば爆弾にするのは簡単だし、要はエネルギー輸出に名を借りた兵器輸出なのだという点とか。ね、結構鋭い指摘もなされてます。

 

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核の問題はゴミ問題
 さらに原発の売り込みと核廃棄物の引き受けのアフターケア問題があります。今世界で欲しいのは原発技術ではなくゴミ捨て場であり、それを引き受けてくれる(押し付けてられる)場所をポイントになっている点。

 ソマリアなんか、もう完全に国家崩壊して多くの人が苦しんでいるんだから、正義と人権をうたうアメリカだったらとっとと出てってなんとかしろよと思うけど、全然いかないね。なんで?といえば、ソマリアの豊かな漁場は、ヨーロッパの核廃棄物のゴミ捨て場になってて、ヘタに主権国家が出来てしまったら、不法投棄ができないから困るんじゃないの?

 憶測を逞しくすれば、次の時代の日本がそのソマリアみたいになって、世界の核のゴミの夢の島のような利用のされかたをするかも、と。もうこれだけ汚染されちゃったらしょうがないでしょ?みたいなノリで。だから何にもしない/させないという説もあります。

 

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 そういった背景事情(ゴミ捨て場がない)のなか、日本政府が原発売り込み同時に廃棄物の引き受けも申し出ているとかいう話もありますな。でもって今なお、日本国内の廃棄場所を、政府が一生懸命検討しているとか(経産省、高レベル放射性廃棄物の最終処分場候補地となり得る地域を示した「科学的特性マップ」を公表」でググると出てくるよ、今年(2017年)3月の話だけど)。

 

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人類なんか生きる資格がない的な

 一方、過去に受けた恨みから人類滅亡を試みる勢力もいます。例えば政治家だけ一足先に避難しているなか、何も知らされず石棺化をやり死んでいった自衛官達。例えば、主人公たちと同じ立ち位置なんだけど、DNA実験の際に失敗作として怪物にさせられたり、人生めちゃくちゃにされた人達。彼からしてみたら、のうのうと生き残ってる人間どもに生きる資格がないということで、主人公達に敵対します。

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 それでも魅力的なキャラたち

 シリアスに語ろうと思えばいくらでも語れる題材をわかりやすく説明しながら、しかし、メインには冒険活劇友情物語にしてて、それがとってつけた感がないので、しっくりきている。

 

 大人たちも汚い連中ばかりではなく、一生懸命やってる人達もいる。自衛官の国木田師団長もそうだし、人間的にダメダメな夏目総理(しかしどこか憎めないで良心は残っている)、その冷酷な懐刀でありつつも熱い思いは忘れていない鴎外長官。

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そして廃墟東京の109で自分らだけで必死に生き延びて暮らしてきた残留都民達は、まさに下町人情物語の世界で、「親方」とか出てくるもんな。  

 

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 結果的に萌えJK達もさわやかな部活みたいなノリになって、汚いものと清涼なものが一進一退でせめぎあっていくという構造になっている。シラけさせもせず、暗くなりすぎもせず、絶妙なバランスでストーリーを進めていきます。このあたりの腕力はクリエイターとしてすごいなーと思います。

 

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  絵と雰囲気は、ドラゴンボール×AKIRA風味なんだけど、鳥山明大友克洋のように画力で読ませる系ではない。しかし、十分に伝わってくる絵です。このストーリーならこの絵が合ってると思う。これ以上妙に写実的だったりしたら、ストーリー全編を清浄化していく要素に欠けるだろうし、これ以上デフォルメがすぎるとシリアスな成分が希薄化するような気もしますね

 

  最後の方がファンタジーになるのだけど、シガラミの少ない若い感性が世界を変えていく。

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 そして、最後に(もうネタバレしまくりだけど、それに気を使ってたら何も書けないんで)、核の問題は廃棄物の問題であると焦点を据えて一つの解決法を提案しています。

 夏目総理の片腕であり冷酷なマキャベリストのように描かれていた鴎外長官が得意の「政治」をかまします。

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この「大変遺憾です」ってところで笑っちゃった。ざまあみやがれ的な。

そして時は流れて大団円になっていくのですが、それは読んですかっとしてください。

 

 

※この文章は、APLACの本家サイト・今週のエッセイ841回の一部に掲載したものを新たにリライトして載せました。



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