オーストラリア/シドニーから。
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漫画紹介:[ナガテユカ] ギフト± ~臓器移植(売買)の闇に対峙するクレバーとイノセント

[ナガテユカ] ギフト±

 誰よりも多く人を殺しているのに、誰よりもイノセントであるという矛盾した存在が環であり、それはこの漫画のテーマであり、臓器移植の本質でもある

 

 

 

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 現在10巻まで刊行されています。

 可愛らしい女子高生が表紙になってるから、その系統かと思いきや、内容はかなりディープなサスペンスです。そして、それ以上にテーマがヘビー過ぎる。臓器移植です。それも医学倫理的に脳死がどうのってレベルの話ではなく、この世で一番ダーク度の高い、臓器売買ビジネスの暗い闇を描こうとしています。

 

 と同時に設定とストーリー展開が複雑に入り組んでます。

 設定が徐々に明らかにされていくのですが、「実はこういう過去があって」とか、「実はダブルスパイでした」とかドンデン返しが続くので、書いている僕も明確に把握しきれていません。

 まず、大病院の御曹司として生まれた崇(たかし)と、数奇な運命に生まれた主人公である環(たまき)がいます。崇はまだ大学生ながら抜群に頭がキレて財閥を乗っ取ろうとすると同時に、環と組んで臓器売買ビジネスをやります。

 こう書くと、いかにもこの二人が外道のようにみえますが、さにあらず。

 首謀者は崇なのですが、彼も、考え抜いた挙句脳死は否定するとか、中国高官からの臓器ビジネスの申出をビシャっと断るとか、それなりに倫理もスジもわかっている。同時に再生医療の重要性と将来性もまたわかってて、これを進めていくことに価値を感じており、その実験素材や費用のために臓器売買をやるのだけど、これも対象者を殺人犯で再犯可能性がほぼ確実レベルという「生きる価値のない」人間に限定し、これを探し出して臓器を抜く(殺されて当然という鬼畜さはエグいくらいに説明されている)。

 

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 一方、女子高生である環は、生まれながらに感情がほとんどなく、同時に天才的なメスさばき能力があるので、淡々と臓器を摘出する、、、というぶっ飛んだ設定です。

 

 

臓器移植の光と影、クレバーとイノセントの象徴

 まずこの主人公格の二人の若い男女のキャラ設定がありえないくらいに飛躍してるのがポイントで、ここで引く人は引くでしょうねー。

 彼らがそうなるにはそうなるだけの重い過去があったりするのですが(最初から移植用のスペアとして生まれてきたとか)、このくらいぶっ飛んだ設定にしておかないと、臓器売買のテーマというのは余りにも重いのだと思います。ちょっとやそっとの設定では、これに新しい角度から光を当てることは出来ないんじゃないかという気もします。

 

 崇も環もかなりディープに傷ついて病んでいるのですが、その傷を起点として、崇はクレバーさの化身になり、環はイノセントな化身になる。なにやら象徴性があるような。

 これは臓器移植が本質的に帯びている光と影に照応すると思います。つまり臓器移植がもっている「命の重さ」「命の授受」です。誰かの命(臓器)で、誰かが新しい命を得られるという荘厳なテーマ。だからこそタイトルは「ギフト(贈り物)」であり、無感動な環も臓器手術をしたあと「命をありがとう」と必ず言います。「光」の側面ですね。

 

 しかし、それはダーク過ぎる世界にもつながっており、上は医学界のドロドロ、下はアウトローの闇世界からひいては中国政府までつながっていく。強烈にマイナスな世界です。この強烈なマイナスに対抗するためには、飛び抜けてクレバーな能力が必要なわけで、それを担っているのが崇という象徴なのでしょう。だからタイトルも「ギフト」のあとに「±(プラス・マイナス)」がつくのでしょう。

 

複雑に絡んでくる人間模様と設定

 環のイノセントさに切なく絡んでくるのが、英(はなぶさ)先生という若くて純情な医師ですが、幼いころの環が臓移植をする主治医であり、環が唯一心を開いている光明のような存在です。しかし、英先生は勤めている病院のダークな一面を知ってしまったことから事件に巻き込まれ、モグリの医師として生きてたり、犯罪組織に拉致されたり、えらい目にあってます。

 

 これに闇勢力がかさなってきて、一つは日本側。政財界の大物が秘密の幼女売春組織とかかわっていたというスキャンダル(実は公開で臓器摘出ショーでもあるド鬼畜な)が過去にあり、これを暴こうとして殺されてしまう刑事、その恋人で志をつごうとする女性刑事。逆にこれを隠そうとする勢力もあり、現役刑事であり、且つ崇の臓器売買の片腕になってる加藤という存在があります。

 

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 さらに中国側の闇勢力があります。黒社会が「優秀な日本製」である健康な日本人の臓器を買い付けに来て、闇社会の日中対立なり、その黒組織のボスを殺して乗っ取る在留三世がおり、でもそいつは実は日本側のスパイであり、でもってさらにその上の中国政府の高官がいるという。かくして誰が誰とどう絡んでいるのか、そしてスパイがいて、ダブルスパイがいてという、かーなり複雑なストーリー展開になるのですが、全体がわからなくてもシーンごとの展開が面白いので読ませます。

 

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不気味なリアリティ


 臓器売買といえば、これは他のなにかで読んだのですが、今は技術(摘出技術、保存技術など)が進んでしまったので、以前よりももっと現実的に儲かるビジネスになってしまっていると。昔だったらかなりの好条件が揃わないと移植なんか無理だったんだけど、最近ではかなり出来るようになっている。だから恐ろしいことに採算の合うビジネスになりつつあるとかないとか。

 

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 以前紹介した「ウシジマくん」でも闇金から借金を重ねた男が、ついに百万で「生きたまま」売られるというシーンがありますが、今の社会の暗い暗い奥の方では底が抜けたようなことになってるのかもしれません。

 

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 この漫画はそのあたりのをグロすぎることないように、わりと淡々と描いてます。「ああ、なるほど、こうなるんか」というのは、中国高官が接触してきて、日本側の崇とオファーをするシーンがあります。そこでは、臓器売買なんてレベルではなく、もっと先まで見ている。再生医療です。小保方さんのSTAP細胞とかそのあたりの。そのための人体実験や臓器であるという。

 確かに再生医療が進んだら、その利潤は臓器売買の比ではないです。まあ、フィクションですから分からんですけどね。でも、中国人の富裕層が、自国の臓器よりも優秀な日本の臓器を高い値で買うという”爆買い”は、なんかありえそうだなーという気がしました。

 

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 こういうダークな世界がこの漫画のテーマその1(崇の世界)だとしたら、テーマその2はその対極にあるような英先生と環との純愛ともいうべき清浄な環の世界です。ところどころにこれが入ってくるから、全体を浄化しているかのように見えます。

 

 てか、誰よりも多く人を殺しているのに、誰よりもイノセントであるという矛盾した存在が環であり、この漫画のテーマそのものとも言えます。環が前面に出てきて表紙になるのもわかる。

 そして、環によって象徴されるものは、そのまま臓器移植の本質そのものとも言えます。なぜなら、基本、誰かが死なないと誰かが命を得られないから。人の死と生が一連のものとして連なっている点が、臓器系のテーマの重さであり、光でもあり影でもあるのでしょう。

 結局のところ、環は人を殺しているのか、それとも人を救っているのか?

 マイナス一つにプラスが一つ、その意味でもギフト±なのでしょう。

 

 この種の社会の暗部を描く作品は、こんなにエグいんですよー、ダークなんですよーって告発的に描く方がよっぽど簡単でしょう。

 しかし、臓器移植によって確かに助かる命もあるのであり、そこには光もまたある。影に埋もれてしまいがちな世界で、光もまた忘れずに照射させるというあたりが、この漫画を出色の出来にしているのだと感じました。

 

幼い環は英先生に出会い、それが彼女の心の支えになる

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 ※本家のエッセイ840/APLAC :永住権と混合ノマドシェア方式に掲載したものを加筆しました

 

 

 

 



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