オーストラリア/シドニーから。
APLAC/SYDNEYの別館。漫画紹介や趣味系の話をここにまとめて掲載します。

漫画紹介:[[鈴木大介 肥谷 圭介] ギャングース~10年の現場取材によって描かれる日本のリアル ~中央政府の問題解決能力がなくなったエリアから、新しい勢力と秩序が生まれてくる

[鈴木大介・ 肥谷 圭介] ギャングース

~10年の現場取材によって描かれる日本のリアル

中央政府の問題解決能力がなくなったエリアから、新しい勢力と秩序が生まれてくる
 

 

 

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「ギャングース」は、本家のエッセイ822回で紹介したのですが、その際には「キーチVS」という漫画と対比させて書きました。「ギャングース」は、この国のいわゆる貧困児童がアンダーグラウンド世界で生き抜いていく話、「キーチVS」はこの国のヒーローになった若い男が、オーバーグラウンドから真剣に世直しを実行していく話です。キーチの方はまた後で紹介するとして、今回はギャングースのみに焦点を絞ります。


日本のリアル
 この両者に共通するのは、今の日本の実相がエグいくらいに描かれていることです。人は自分の姿を大体3割増くらいに良い方向に盛って認識するとか言われます。実際よりも美男美女に、カッコよく自分という存在をイメージしている。だから第三者の何気ないスナップ写真に写ってる自分を見て愕然とする。

 

  国や社会も同じことで、実物よりも3割増くらいに良く思う、この世はなべて平和で安穏で、まかり間違っても自分が地獄みたいな世界に叩き落されることはないと思う、そう思いたい。そこを無遠慮なくらいリアルに「日本ってこんな国だよ」って描いているのがこれらの漫画だと思う。

 

 ギャングースのリアルさは、オレオレ詐欺や半グレなど近時の日本のアンダーグラウンドを10年以上丹念に取材を続けてきた原作者・鈴木大介氏が、防犯的な意味も込めて、その手口の詳細を惜しげもなく公開していることで成り立っています。

 

 随所に一口講座のように現代の(といっても10年前のものだが)闇社会の情勢が語られます。たとえば、 半グレとオレオレ系との違い

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 取材の深さもさることながら、彼らアンダーグラウンド社会の連中の緻密さ、計画性、慎重さ、残忍さ、だからこそ逆説的に感じられる人間らしさ。実際読まれてみて一驚されると思いますが、全編欄外の注釈だらけで、読むのに非常に時間がかかります。が、読む価値はあります。

 

 僕自身、普通の人に比べて、刑事弁護や民事暴力、倒産案件などでアンダーグラウンド世界と触れる機会はあった方でしょうけど、その僕から見ても「ああ、これはリアルだな」って思う。リアルならではの論理性や実戦性があるからです。ある意味、アンダーグラウンドくらいリアリズムが徹底している世界はないわけで、自分に都合がいい妄想に浸ってたら、あっという間に殺されたり、手が後ろに廻ったりするわけですから。

 

猛烈に濃密な裏社会の情報集

 10年分の取材の成果がパンパンに詰まってるので、一巻づつ語りたいくらい濃密。ほんと防犯的な意味だけでも、読む価値あります。

 

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某建設会社の工事現場のナンバー錠の番号は全部同じにしてあるとか(今は違うよ)、

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犯罪専門の道具屋、何でもアリ。

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違法携帯のルートの一つに八王子系があるとか。

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 個人情報漏えいの行き着く先としてのカモリストがあり、そこには独自の調べで「威迫に弱いか」「世間体を気にして金で解決する傾向があるか」などの心理傾向まで詳細に調べ上げられているとか。 f:id:aplac:20180105064900j:plain

 

 

 典型的なオレオレ詐欺の講習レッスン現場や詐欺チームの選抜方法や、人格改造講座まがいの特訓の様子、

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 典型的なオレオレ詐欺。都会に出た息子が児童買春して、女の子孕ませて、相手の親がキレまくって、弁護士が出てきて示談にするので至急示談金送ってくださいって構図だが、数人で弁護士役、ブチ切れてる親役など迫真の演技をする。

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わざとパチンコの景品交換所のセキュリティいじって、民間警備会社のスキを付く方法

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 お年寄りを騙す手口としてのリフォーム詐欺のあれこれ(バリアフリーだの、金庫だの、金庫補強のジャッキアップだの、床暖房だの)、

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 リタイアした大手企業の部長を騙すために相手のプライドをくすぐりつつ誘導していくリアルな話術、

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警察のNシステム破り

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 これだけ周到に準備されたらそりゃ騙されるわってレベルです。

 

福島地震の直後に行われた窃盗団、詐欺団のリアル

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ギャングースのドン底パワー
 ギャングースの主人公三人トリオの馬鹿的なひたむきさはすごいです。

 ちゃんとした教育を受けてないから、世の中の常識も知らない、だから知らない言葉が出てきたら即その場で辞書をひきメモをつくる。でも小学校もいかせてもらってないから辞書の漢字も読めない、だから恥ずかしいもクソもなく、一番知ってそうな人に聞きまくる、俺たちにはそれっきゃないんだってどん底から這い上がっていくパワー。

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 背中一面、虐待といじめの傷跡だらけで、「ウンコ」「チンカス」とまで掘られていながら、「大したこっちゃねーよ」と鼻くそほじりなら嘯いたり、少年院のイジメでメシを床にぶちまけられ啜って食えと言われている友達を助けるため、自分でも一緒になって啜って「あー、うめー、床ゴハン、サイコーだぜ」ってしゃあしゃあとやってのけられるメンタルのタフさ。

 

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 ギャングースは、生い立ちがめちゃくちゃ悲惨な奴ばっか出てきて、全ページ犯罪シーンばっかりなんだけど、ギャグ漫画でもあるという不思議な作品です。

 

 これだけダークな世界を描いているわりには全然湿っぽくならず、救いのない陰惨さも感じられないのは、ひたすら主人公が底抜けに明るく、底抜けに真っ直ぐなところが救いになってるからでしょう。このあたりはかなりフィクションなんだろうけど、暗くなりがちな世界を描きながら暗くならない。

 

 日本のアンダーグランド勢揃い

 また出て来る人間がえらくキャラが立ってます。日本のアンダーグランド勢揃いって感じで、

窃盗団タタキ専門(窃盗団からさらに盗む)主人公三人

闇系の道具屋ナンバー1の高田くん、

チャイマ(チャイニーズマフィア)のヤンくん、

黒孩子(ヘイハイズ)の可愛いユイカちゃん、

筋金の入りの極道のミヤさん、

地元の町の後輩達の面倒を一心に見ているスーパー番頭の加藤さん、

在日外国人二世ハーフのマルコスとカルロス、

闇金に追い込まれて両親が首を括るのを目の前で見させられ、復讐を誓って何年もかかって敵に懐に潜り込んでいったアゲハさん、

敵役の半グレの王様安達(チャラいホリエモンらしき人物も出てくるけど)などなど。

 

 

貧困のメカニズム

 日本で貧困が問題になってますが、こういう世界が広がるということでもあるのでしょう。子供の貧困って、要するに大人の問題です。本当にむちゃくちゃな親とかいますから。でもその親だって生活保護を却下されて、必死で働いて疲れ果てた末だったりする場合もある。

  例えば-------

 母子家庭で頑張ってても、疲れて、生活不安になって鬱になって、心療内科で薬剤処方されるけど、今度は副作用で起きられなくなって仕事クビになったり。もともと社会的スキルが低いから(きちんと筋道だてて論理的に説明する言語能力が低いとか、難しい手続きを理解する気力がないとか)、生活保護申請をしても窓口で却下されてしまう。いよいよどうしようもなくなって闇金に走り、返せないから売春させられ、どっかのしょーもない男に食わせて貰うようになり、そのクソ男が面倒くさがって幼児虐待するけど、それを止める力もない。

  

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ブラジル系労働者の子どもたち

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 子供の6人に一人が貧困家庭であり、この比率は今後もっと増えるでしょう。増えてどうなるの?っていえば、どっかの安アパートの一室で全員がひっそり白骨化するってもんでもない。その立場に置かれたら、それを起点に人は必死に生き抜こうとするし、そのうちに何割かは「生きるためのスキル」を身に着けていくでしょう。運がよければ、保護者や仲間に恵まれて正業で頑張れるけど、運が悪かったらアンダー世界に行く。

 

徐々に形成されていく日本の新しい秩序

 マスで考えてみれば、いい人と出会って人生持ち直せるかどうかは、これは単純に確率の問題でしょうから、一定の比率でアンダーな世界も広がる。広がっていけば、そこにはそれなりの秩序が出来ていくでしょう。

 

 政治や経済がヤバくなって、社会の貧困化が進むということは、単に荒廃が広がるというだけではなく、それはそれでまた新しい何かのシステムになっていくのかなーという気もします。いい意味でも悪い意味でも。

 歴史的にみても、かつて平安から鎌倉時代に向かうとき、貴族の荘園支配が緩み、既存の搾取農村システムから逃げてきた人々が中央(京都)の権力の及ばない僻地(関東)の山を開墾し、やがて武士勢力の基盤になったように(坂東武者)。あるいは室町幕府の中央統制力がなくなった応仁の乱以後、全国各地で下克上による戦国秩序が広がっていったように。

  中央政府の問題解決能力がなくなったエリアから新しい勢力と秩序が勃興し、やがてそれはあなどれない力を持ち、社会のメインフレームをも変えていきます。日本政府の問題解決能力の限界がハッキリ露呈していくにつれ、それでも人々はなんとかしようとしますし、しなければ生きていけない。

 

 「なんとかする」の方向も二つあって、一つには、自分たちで何とかする方向で、NPOやシェアリング経済などの草の根的発展です。もう一つはアンダーグランド勢力の増大です。

 

日本にはまだ希望がある

 第三世界がなかなか伸びないのは、この後者の部分。例えば中南米がなかなかパッとしないのは、麻薬カルテルなど強大な闇勢力が「秩序」を持ってしまっており、よほどのことでもない限り表の世界から変えていくことができなくなっているからでしょう。あるいは内戦ですね。昔からの部族闘争やら殺し合いの連鎖で、恨みが恨みを呼んでどうしようもなくなってる状況。

 

  でも日本はまだそんなことにはなってない。日本はまだまだ希望があるのは、なんだかんだいって、より良い社会になればいいなというのは全員が思ってるからです。もちろんグレてアンダーに入る人だって沢山いますけど、根っからの病的犯罪者の割合なんかこれも確率論ですからそう大した比率ではないです。大多数は、どっかで希望を失ったり、選択肢がなくなってそうなっている。では、そもそもなんでグレたんだ?なににムカついてるんだ?っていえば、不公平で理不尽でクソな社会に起因するからでしょう。結局のところ社会が良くなるに越したことはない。

 

 日本のアンダーグランドを取材しまくってきた原作者が、「もう終わりだ、死ぬしかない」的な結論ではなく、むしろ前向きなベクトルになっているのは、そのあたりではまだまだ死んでないからだと思います。

 

 例えば、オレオレ詐欺の幹部番頭の加藤も、田舎の地元の後輩達の面倒をみるという男気でやってたりもする。

 

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 在日二世のマルコス達も

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 極めつけは主人公で、日本の王様になって、自分みたいな子供達を救おうという途方もない野望がある。お馬鹿でありながらも、俺みたいな子供をもう日本で作らせない、そのために銭がいるんだ、61兆円あればなんとかなるという意外に勉強熱心だったりする部分やら。

 

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  そして最終回で、登場人物が全員、表の世界で成功していくのは、大団円らしいファンタジーなんだけど、「悪に強けりゃ善にも強い」を地でいっているような話だと思います。

 

 

中流の80%がネックになる

 もう一点、これは「キーチVS」とも共通するのですが、結局「普通の人」の問題に帰着するのかなと。どんな問題を掘り下げていっても、最後に鉱脈のようにブチ当たる問題で、いわゆる大衆の無関心と愚民性の問題でもあります。

 

 羊の集団がおって、狼が襲ってきて端からガシガシ喰われているんだけど、羊は自分の周囲30センチしか見ようとしないから全然気づかない、それに気づいて警鐘を鳴らす羊もいるんだけど、逆に狼少年呼ばわりされて他の羊にウザがられたり、いじめられたりする。「狼なんか来るわけないよ」「今の平穏がずっと続くんだよ」と根拠のない思い込み、時には信仰に近いくらいの願望的すがりつきで、結局、誰も救われないという構図です。

 

 ギャングースの場合は、貧困家庭がどれだけのものか、世間が狭くて無知だし、想像力がしょぼいから理解できず、「生活に苦しいのは俺も同じ」とか一般化することで誤魔化したり、盗人も三分の理的なくだらない矮小化をして済ませようとする羊っぷりがあります。確かにそういう側面はあるけど、それだけでは片付かない問題が出てきているのだが、そこはスルー。なんでもそうだけど、一般論で解決できる問題は少ない(「無い」といってもいいかも)。

 

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 人間というのは、僕もあなたも愚かな側面があり、いくら理性的に or 直感的になにかに気づいていても、それが自分の都合に合わなかったり、言われたところですぐにどうしようもなかったら、無視しようとする。「いくらなんでも」「まさかね」で処理し、そういう言説を荒唐無稽なトンデモ話系として排斥し、それを言う人を疎んじて茶化したりします。そうでもしなけりゃ精神の平衡が保てないでしょうし、一種の正当化理論です。

 

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 以前弁護士やり始めて、わりと早い時期に思ったのだけど、この社会の上下10%はわりとリアルに生きているんだけど、真ん中の80%くらい(数はテキトー)はあんまりリアルじゃないなーと感じました。ココが問題なんだろうなーって。

 

 だけど長くなったので、今回はこの部分は割愛します。それをガチに問いかけているのは、ギャングースよりも、むしろ「キーチVS」であって、そちらの方に書きます。ただギャングースの原作者の鈴木さんも、そのあたりは一番感じておられるようで、同情しろとか、行動しろとか言わないが、理解しようとしてくれ、少なくとも目を閉じないでくれ、いや目を閉じてもいいから、無かったことしないでくれ、いや無かったことにしてもいいけど、少なくともそれを強引に押し付けないでくれ、ってことでしょう。

 

 これは社会問題全てに共通するでしょうし、社会問題に限らず、個人的なレベルの問題(恋人、夫婦、親子、友達なんでも)に共通すると思います。自分に都合の悪いことは無かったことにしようとする。

 学校でいじめがあっても「調査の結果、いじめは無かった」と言い切り、配偶者や恋人になにかの不満があって話しかけても「いま、忙しいから」でシカトし、「ウチは円満」というストーリーに固執し。なんでもそう。それが大規模になると国家レベルで上手く処理できてない問題があったら、無かったことにする。隠蔽や偽装は昔からあって、戦時中の大本営発表から、公害事件の被害者の口封じから、HIV感染被害の厚生省の組織的隠蔽から連綿と続いてます。

 

 ただ、こういった「ンなわけねーだろ」ってミエミエの嘘でも、それがまかり通ってしまうのは、80%の中流普通の人々の、「この世はなべてこともなし」という幻想正当化の欲求がベースがあるからだと思う。でも一方では、ストレスで疲れているなか、これ以上ストレスや不安のタネを増やしたくないって心情はよくわかります。

 うーん、さて、どうしたもんか?って感じ。

 

 

 ※このアーティクルは、冒頭に書いたように、本家APLaCの

aplac.net

を増補リライトして掲載しました。


 

 

 

 

 

 



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