漫画紹介 [たなか亜希夫×ひじかた憂峰] リバースエッジ 大川端探偵社
[たなか亜希夫×ひじかた憂峰] リバースエッジ 大川端探偵社
これは、なんか昭和時代の古き良きテレビドラマみたいですね。って、実際にもテレビ番組になってるらしいのですが(マンガ連載は2007年からで、テレビは2014年らしい)。
しっかし、連載している雑誌が「漫画ゴラク」ですからね。ジャンプやマガジンのような少年誌、ヤンジャンのような青年誌でもない、「大人誌」みたいな、濃ゆい漫画が載ってる雑誌です。青年誌がキャバクラだったら、ピンサロみたいな(笑)。
で、この漫画も濃いんですけど、でもあっさり風味。どっちなんだ?って感じだけど、いや、絵柄やキャラやテーマは濃いんですよ。「萌え」の対極にあるよ うな。いわゆるマンガ的な美男美女が出てこない代わりに、人生「いろいろあった」年輪が深く刻まれているような中高年がメインに出てくる。
でもってテーマになるのが「いろいろ」な人生模様なんだけど、感じが似てるのが弘兼憲史(課長島耕作描いた人)の「人間交差点」です。あれも味わい深 い作品集なんだけど、あれが映画とか文学風に仕上げているのに対して、このリバースエッジは落語風に仕上げているというか、もうちょい軽妙洒脱なのです ね。内容的には、リバースの方が、アンダーグラウンドや社会の片隅系が多く、ダーク&ディープなんだけど、だからこそ出てくる人間の巧まざるペーソス(哀 感)と可愛げがダシになっている。
もっともっとドロドロした方向に持っていくことは出来るんだろうけど、そこは大人の度量みたいな感じで、軽く仕上げて深追いしない。濃い素材を使って あっさり仕上げている。したがって読み味が薄いと感じる人もいるだろうし、「え、これで終わり」「それがどうした」って感想を抱く人もいるだろうと思う。 でも、僕は、その薄い味付けが好きですねー。けっこう悲惨でディープな話なんだけど、「悲しいよなあ、人間」的に受け止めつつも、そっとしておく感じね。
あと、「ここから先は詮索しないのが人としての仁義」であるとか、裏街道の情報網とか、どこから先が手に負えなくなるので触ってはいけないボーダーなのかとか、そこは結構読ませます。僕のしょぼい実経験に照らしても
、かなり当たってるような。
トータルでいえば、これは「人間賛歌」なんだと思います。いろいろワケありな人達が出てくるし、変だったり、ダメだったりするんだけど、変でダメである からこその健気さ、人間というものの業の深さ、それゆえの可愛らしさ。
ベーシックには人間をすごく肯定してて、それが読後感の爽やかさにつながっていきます。
結局はどこかしら美談なのですね。
人間の立派さや気高さゆえの人間愛ではなく、ダメダメだからこその人間愛という。
舞台が東京の下町ということもあるのか、江戸前の味付け。
蕎麦の食い方みたいに、濃厚なつゆなんだけど、べったり浸すことはせず、ちょっとだけ漬けて、 ズルルっと一気に食べる。濃いけどあっさり、というのはそういうニュアンスです。
考えさせられるセリフがかなり多いので、参考画像を選んでたら捨てきれなくなってし まって、ちょい多めに。
文責:田村
※この文章は、APLACの本家サイト・今週のエッセイ825回の一部に掲載したものを新たにリライトして載せました。