オーストラリア/シドニーから。
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漫画紹介 [真鍋昌平] 闇金ウシジマくん 悪党と愚者の混沌スープ

[真鍋昌平] 闇金ウシジマくん

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 これも有名な作品で、まだ連載してると思います。TV番組にもなったのかな。最新刊が41巻とか、結構長いですねー。

 

 この漫画はですね、読むと誰もが鬱になるという(笑)。


 それは作品としては褒め言葉なんだろうけど、そのくらいインパクトがある。エグくて残酷なシーンもあるんだけど、よくよく見ると全体の割合でいえばちょっとしかなく、多くの鬱性インパクトは人の愚かなありよう」です。

 

 人間の醜悪さというか、世間の人々の愚かさがこれでもかと描かれています。それも「ああ、いるいる、こういう人」というリアリティがありつつ、そのリアリティを導入部として、どんどん知らない世界まで進んでいって「え、こんなひどい奴っているの?」というところまで底なし沼のように続いていく恐さ。

 

 主人公であるウシジマ君がメインで出てくるのは、最初の巻と、あと終末に近づいている最近巻くらいで、あとの大部分は、日本で生きているあらゆる人々の(転落していく)人生がきめ細かく描かれています。

パチンコ中毒になって借金まみれになっている主婦たち、地元のヤンキー、風俗嬢、フリーターやニート、サラリーマン、イベサーやってるギャル汚くん、生活保護者、それらを飼って儲けているヤクザ、ホスト、パーティージャンキーのOL、ネズミ講のカリスマ指導者、、、

しばしば多用される異様にリアルな街の風景=それが「目に映る冷たい現実」をとあいまって、「日本ではこうやって人生が詰んでいく」というプロセスが緻密に描かれています。

 

こーゆーのにやられちゃう人っているんだろうなー↓

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奥さんの見栄と浪費で自己破産ってケースも結構あります

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ストレスたまりまくってるサラリーマン氏

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こうして廃人になる、、的な

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 ワルの世界でも同じことで、地元のヤンキーの王様で君臨してた愛沢君の場合、腕力にまかせて行き当たりばったりで生きていて、ついには行き詰まる。上には上がいるから、もっと強くて恐いヤクザに取り込まれ、なんだかんだ金をむしり取られ、しまいには追い込まれて強盗まで計画するけど上手くいかず、最後の最後は、ヤクザに保険金かけて車に飛び込まさせられる。

 

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 あるいは、お父さんはリストラされ、お母さんは家計を支える意識が強すぎて株に手を出して、悪い連中にひっかかって、信用取引追証→家屋敷全部取られ、息子はニート手前のフリーターで自分のブログに世の中への恨み言を書くしかないという一家が、落ちる所まで落ちる話。

 

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 借金まみれの人間一人、わずか百万円で売買され、コンテナに入れられ、生きたまま中国か東南アジアまで売り飛ばされるとか救いのない結末もある。

 

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意外と救いもある結末も

 逆に、救いのある話もあります。上の一家離散パターンは、落ちるだけ落ちて、逆に家族の絆が復活し、息子もやる気になって立ち直っていくという。意外と、そういう明るい終わり方をしているのも結構あります。下は、上にあげた「一万回は親に殺意を感じた」ボクの成長した姿です

 

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サラリーマン氏の同僚は会社をやめて起業することに

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 ウシジマ君も決して「いい人」になってしまわないように、冷酷な金貸しスタイルを徹底してるんだけど、でも社員や仲間は絶対に大事にしてて、裏切られてもなおも許すところがあったり、自宅ではウサギを沢山飼ってて、死んだらペットのお墓まで作ってお参りしてたりという(笑)。

 

ところで、実は大手銀行や国が一番悪どい件

 ちなみに余談ですが、この漫画の中にも出てきますが、一番汚いのは誰か?というと、実は国や銀行だという見解もあるわけです。今、日本には「サラ金」が無くなりました。サラ金規制法で金利上限を制約され、そして過払い金請求訴訟がどんどん起こされ、アコム武富士も全部潰れた。そして潰れたサラ金を吸収したのが大手銀行です。
 その背景事情として語られるのは、銀行はなかなか儲からないので四苦八苦してて、サラ金の領域をぶんどるために、国と結託して法律を変えて、訴訟を起こさせてサラ金を潰して乗っ取った。そこまで計算してやったかどうかわからんけど、結果的にはそう。

 

 でも、それが日本の貧困レベルを地獄化させたことは否めない。

 今まで、借金する場合、優良な順に、銀行など表の業者→次にサラ金という業界→さらに恐い街金→最後に闇の世界の闇金がある。これまではサラ金という領域があって、アコギではあってもそれなりのノウハウでやっていたし、サラ金段階だったらなんとかして自己破産して更生することも出来た。それだけサラ金には白とも黒ともつかぬグレーゾーンで商売やって儲けていく回収技術があったのですね。

 でも、大手サラリーマンの銀行員にそこまでリアルな回収技術はないから、今までよりもかなり手前で融資お断りになる。危ない橋は渡らなくなる(それでも現時点で相当貸し付けててヤバくなってるのだが)。そうなると、借り手としては、もう一気に闇金まで転落するケースが増える。 なんでかというとサラ金時代で揉まれて学習する期間がないのもあって、街金と闇金の区別もつかないで闇に手を出す。闇金の恐いのは、存在自体がわからないのと、姿が見えないから法律に従うかどうかもわからんことです。街金(高利貸)は名前も堂々と出してやってるし、出る所にも出るから話はしやすいし、こうくるだろうと予想はできる。しかし闇はほんとに予想がつかない。

 サラ金だったら自己破産で追求は終わった。でも闇金は、ヤクザ以下の恐い連中もいたりするから、自己破産しますから返せませんとか言っても、「ふーん、でも俺ら関係ないから。あんたの家族殺してでも回収するよ」とか脅されてしまう(実際、そうなったら即警察行くべし、表に出て恐いのは相手の方だから)。

 結局、大掛かりなしくみをつくって、これまでのサラ金の美味しい部分は大手銀行がかっさらっていって、サラ金の苦い部分や社会的機能=自己破産してチャラリセットの部分を負担することは放棄した。だからそれまで救えていた日本の貧困近辺層が、より救いのない地獄に落とされるケースが増えたんじゃないかという点です。

 

 ウシジマ君は、闇金のなかでもまだ良心的な方で、対面して人間関係作ってますから、闇金というよりも高利貸や街金に近い。でも実際にはもっとダークで鬼畜なところもあり、この漫画にも出てくるけど、ホームレス拾ってきて豚小屋みたいなところに住まわせて、生活保護費や障害年金をぶんどって、強制労働させてそれもピンはねという、人間を家畜として扱ってるところもあります。障害年金取るために手足ちょん切るとか(この話も出てくる)。

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ウシジマくんという視点
 思うのですが、作者が描いているウシジマ像というのは鏡みたいなもの、世界の人が愚かで汚かったら、それに応じてウシジマ君も恐くて冷酷になるけど、本人に意欲と行動があるならばそれに応じてちょっと優しくなる。闇金というのは、本当にどうしようもない人、誰にも相手にされなくなった人が最後の最後に頼みにくる、この世界の極北の地みたいなところであり、そこでは非常に歪(いびつ)な形ではありながらも、なおも人間関係がある。

 

 この漫画、確かに数ページ読んだだけで目を背けたくなるくらいムチャクチャな悪党と、どうしようもない愚者ばっかりでてきてうんざりします。漫画的にデフォルメしすぎじゃないか、いやデフォルメであってほしい、現実はもう少しマトモであって欲しいとか思っちゃうくらいです。

 

 逆らった奴をリンチするのに身体にタバコを押し当てて一生消えないくらいの火傷を負わせて、珍妙なブラジャーの形にするなんてのはまだマシな方で、全身くまなく変態的な入れ墨をするとか、耳削ぎ落として七輪で焼いてそれを自分で食わせて食レポさせるとか、弱者をいたぶるのが生き甲斐のような毒蛇連中が出てきます。そして相互に噛みあい、さらにそいつらをボコって、その上前をハネるヤクザとか。ものすごい弱肉強食の世界。そんな世界でウシジマ君は生きているわけで、そこでサバイバルするためには、どれだけ強く、クレバーで、慎重で、大胆でなければならないか。

 

 ウシジマくんの視点というのは、クソ溜めみたいな社会の底辺、その全てのメカニズムに精通しつつ、その上で「まあ、こんなもんだろう」という線の引き方を示していると思います。表の法律とか、なまじのキレイゴトではどうしようもないくらいムチャクチャな貧困世界で、それでも一定の人としての秩序を刻んでいくなら、このあたりであろうと

 

 たとえば命に別状がないなら徹底的に取り立てる。返す金がないなら、隣近所一軒づつ訪問させ玄関先で土下座させて千円借りてこさせる、金額に満ちるまでそれをやらせる(一緒についてるんだから相当な辛抱づよさだよな)。んでも、トータルでヤバいな、人生終わるなこいつと思ったら、貸さなかったり、強引にでも別の道に進ませようとする。それでも直らなかったら、もう見捨てる、見切って人生終わらせる。

 

 ウシジマくんの人間関係は幼馴染みや高校時代の友達関係で出来てます。クラス全員でウシジマくんをリンチにしていた奴ですら仲間に入れている。そして仲間(社員)は家族であり、徹底的に身体張ってでも守る。守りきれなかったら、遺族に数千万という単位で援助をする。殺伐としたジャングル世界に生きているだけに、仲間の貴重さというのはものすごく強く、そこは大事にする。

 

竹本くんとウシジマくんの役回り

 そして竹本くんという天使のような男の子が出てくるのですが、彼はウシジマくんがリンチにあった高校時代、クラスで唯一リンチに参加しなかった(そのためにイジメられるのだが)。竹本くんはキリストみたいな人で、そのあたりがすごいハッキリしてる。絶対に付和雷同しないし、徹底的に助ける。その極端さがウシジマ君とにていて(ウシジマくんは絶対に妥協しない極端さがある)、馬が合うのです。

 

 生活保護家畜の章でも竹本くんがからむのですが、最後に竹本くんは仲間をまもって、自分から進んで廃人になるルートを選ぶ。ウシジマ君は説得しようとするんだけど、お互いの性格はよくわかってる。誰よりも親友であった竹本くんを、自分で葬らないとならない苦悩が(さらっと)描かれてます。

 

 このあたり表現が刺激的過ぎてそれで見逃されがちだけど、よく描かれてるなーと思います。何をどうしても勧善懲悪の図式にはまってくれないこの世界のリアル。読み味としては、まだ極道系の方がはるかにマシです。あれは強者だけの論理で話が進むから、殺し合いをしようがなんだろうが、ある意味吹っ切れている。シンプルなルールでスポーツみたいに進むからカタルシスもある。逆に水戸黄門のような勧善懲悪だったらこれも楽です。弱者=いい人ですから。

 

 ところが、本当の現実社会は 弱者=愚者 だったりして、そこでわからなくなる。「どーしよーもねーな、こいつ」ってのが弱者になるから感情移入もできない。

 そんななかで、「どこまで助けるべきか」というものすごい難しい問題が出てきて、あくまで助ける竹本説と、一定のところで線を引いていかなとダメなんだというウシジマ説が出てきて、お互いを理解しつつも、悲しく対立してしまう。

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せっかく竹本くんとウシジマくんが心配しているのに当の本人達はこの馬鹿っぷり。

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 かくして悪党と馬鹿が入り乱れている治外法権ジャングルになるんだけど、そんな中で、ごく限られた範囲ではあるけど、本当に可哀想な人とか出てきて、そこでは誰かが動くのですな。常に小狡い小悪党キャラのマサルは、沖縄編で本当に薄幸の母子家庭に出会い、彼女たちを守るために命まで張る。

 

 あー、書いてて思い出した。弁護士やってる時代、ワンクッション置いて聞いた話だけど、苛烈な高利貸の取り立てやってる人がいて、暴れん坊なんだけど、本当に可哀想な家に行ったら、何も取り立てられないどころか、逆にポケットマネーを渡して「これでうまいもんでも食いな」とかやってしまったという。あとで会社にしぼられて「俺、この仕事、向いてないんですかね?」とかボヤいてたらしい。これ、実話ですよ。世の中、混沌としてるんだけど、混沌としてるからこそって話もあるんです。

 

 ただ悲惨な話がこれでもかと続くなかで、一番やりきれなかったのは学校のイジメでしたね。メインには出てこずエピソード的に出てくるんだけど。

 

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 他の事例は、どんなに悲惨だろうが、最初から突っ張らなかったら、最初から借りなかったら、ここまで堕ちることはなかった。どっかしら本人にも理由がある。でも学校のイジメは、強制的に学校いかされて、強制的にどっかのクラス入れられて、それでヤバくてもチェンジもできないという、本人の帰責性は限りなく低いケース。

 

 話題が違うのであまり書きませんが、僕らの昔もイジメはあったし体験もしたけど、まだ陽性だったと思う。ネチネチとはしてなかった。イジメって、加虐者のストレスに比例するからなー、今はけっこうヤバイかも、です。制度的になんかしたらいいかもね(例えばせめて高校くらいだったら、大学みたいに自由に単位選択と教室と授業を選べるとか。義務教育じゃないんだから)。ま、これは別の話。

 

 

※この文章は、APLACの本家サイト・今週のエッセイ829回の一部に掲載したものを、かなり加筆リライトして載せました。

 

 

 

 

 



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