オーストラリア/シドニーから。
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音楽話:ムーンチャイルド/Moonchild (King Crimson) ~静謐で透明な詩情。童話と絵本の世界

Moonchild ~King Crimson「クリムゾン・キングの宮殿」より

 

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ロックの古典の話です。1969年の曲。

でも、古典だから、懐かしいからという理由で書いてません。ただ単に群を抜いて「いい曲だ」と思うからです。最初に聴いてから30年以上経ってるんだけど、今聴いても新鮮だし、多分百年後に聴いてもいいと思うだろう(死んでるけど)。

 

 キング・クリムゾンKing Crimson)というバンドは、メジャーなロックの黎明期(1960~70年代)に出てきました。ビートルズとかスートンズ(Rolling Stones)、ツェッペリン(Led Zeppelin)、パープル(Deep Purple)など巨星達、未だに定期的にDVDのBOX版が昔のファン向けに出されるような時代です。「古典」ですね。

 

  ここでクリムゾンの話をあれこれ書いたのですが、今回はもうカットします。また別の機会で書くだろうし。

 

 「ムーンチャイルド」という曲は、クリムゾンの衝撃のデビューアルバムに入ってます。エピタフとクリムゾンキングの宮殿という大作2曲の間に、まるで「箸休め」のように挟まれているのですが、これがまた別の意味で衝撃で、え、なに?この童謡みたいな の?」という。ほんと童謡みたいに超わかりやすく、、聴いたら一発で覚えられるメロディライン。これがあの「プログレッシブ・ロック」なのだろうか?どこが先進的で画期的なのだ?どこかに意味が隠されているのでは?うーむ、ようわからんってな感じでした。

 ただ、あれから時間が経ってみると、実はこの曲が一番すごいんじゃないかって気もするのですね。なぜなら、当時の時代背景とか、音楽的な革新性とか、そういう補強要素を一切抜きにして、純粋の楽曲の力だけでいうと、一番残るのがこのシンプルな曲だったりする。

音・メロディ・曲構成

 この曲は、音の面でも、言葉の面でもどちらも突出してるのですが、まずはサウンド面

 

サウンド的にいえば、まず聴こえるのは印象的なギター。マンドリンみたいなややトレモロがかって、かすれて。静かな海が月の光に照らされてるような、一種のテカリのある音作りです。

 あとハイファットとトトトトだけで押さえているドラム。

 そっと寄り添うような、自然に吹いている風のようなたたずまいのフルートだかメロトロンだとかの職人芸とか、僕もよく理解できてはいないです。ただ、これだけメロディが良くてシンプルな原曲があったら、演奏者的にはめちゃくちゃいじくりたくなる筈 で、それをよく抑えているなーと思います。

 

 まずメロディラインですが、非常にシンプルです。使用音数も少なく、主旋律をギターで弾いたら1弦だけで全部弾けてしまうくらい。

 ここで原曲を聴いていただきたいたいのですが、MoonchildをYouTubeで調べるとたくさんある(原曲に合わせてどんな画像を入れるかのバリエーション)のですが、とりあえずはこれを。一番シンプルで、且つよくできるなーと思うので。

 

 
 しかし単純で印象的なメロディを作るというのが至難の業です。嘘だと思ったら作曲してみたらいいです。物凄い才能に恵まれたプロでも、名作レベルに なれば一生に一曲作れれば御の字って世界でしょ?とりあえず出来たとしても、全然面白くも良くもない。

 音数を少なくすると、順列組み合わせですから、 どっかしら既存の曲に似てきてしまうのですよね。逆に開き直ってよくあるパターンに落とし込めば、まあ形にはなるのですが、よくあるだけに曲としてのインパクトは薄くなる。世の中に流通している曲の99%はこれかもしれない(あとは歌詞、アレンジ、ビジュアルなどで差別化をはかる)。いやディスってるわけ ではなく、それだけ斬新なメロディを思いつくのは難しいって言っているのです。世界新記録を打ち立てるよりも難しいと思いますよ。

 このムーンチャイルドは、これだけ印象的なメロディなくせに、どっかで聴いた感がないもしかしたら西欧の古い民謡に似たようなのがあるのかもしれないけ ど、僕は知らない。まずこのオリジナリティが凄い。同じアルバムに入ってる「風に語りて」も佳曲なんだけど、メロディの起伏がムーンチャイルドほど印象的ではない。こういうのっぺりした鼻歌ソングだったら結構作りやすいんだけど、童謡のようにメリハリがついたメロディラインをオリジナルで作るというのは本当に難しいです。

 

ゆっくり下降するメロディラインの気持ちよさ
 なんでこんなに印象的で、わかりやすくて、落ち着いて聴いてられる安定感があるんだろう?と考えてみたら、このメロディラインにツボがあるように思います。

 まずポーンと高いところに蹴っとばし て、最高点からゆらゆらと落下してくるメロディラインなのですね。

 何を言ってるかというと、メロディの冒頭、call the moonchild~って部分ですが、こーざ(E/ミ)→むーん(A/ラ)→ちゃーい(E/1オクターブ高いミ)と一気に1オクターブあがる。ラグビーの パントのように、最初のボールを高く高く蹴る。このメロディがあまり類例がないくらい強引で印象的。普通、いきなりこんなに上げないですよ。しょっぱなからサビがくるみたいな。

 でもって、ルート音に5度の二種類(ルートはオクターブ差で2つ)しかなく、ルートと5度だったら人間にとってもっとも安定感のある音の並びだから聴いてて安らげる。ココで科学的な理屈を言えば、音=周波数のキッチリ整数倍の周波数(音程)がドレミファの12音周期律で、なかでも3 度と5度の波動共鳴性は強い=だからハモりに使われる。

 で、むーんちゃー↑って一気に頂点まで持ってきてからは、あとは落下傘が落ちてくるようにゆっくり音程を下げていく。ゆっくり降りてくる旋律というのは、これもまた人の心に気持ちいいんですよね。

 曲が分かりやすいという点で言えば、この曲にはAメロとBメロしかないんです。普通、AとBがセットになって二回繰り返して、展開部にCがきて、そして サビのD(あるいは発展C)がくるという曲構成なんだけど、ムーンチャイルドはAとBの繰り返しを2セットやって終わりという、めっちゃシンプル。Bメロ も最初に上げて、後半でゆっくり下ろすパターンも同じ。これをこのゆっくりテンポでやられると気持ちいいんですよーラジオ体操の深呼吸のような感じに なって、聴いてて呼吸が楽になるような。聴いているうちに、曲に呼吸を合わせるようになりますよ。

 そして、そのシンプルなメロディを支える伴奏部分なんだけど、譜面をそのままピアノで弾いた作品があったのが、あげておきます。すごいわかりやすいです。ただ原曲よりも繰り返しが多いので、ちょっと飽きるんだけど(回数って大事よねー)。

 

 これで聞くと、主旋律に気を取られすぎないので、曲の骨格がよくわかると思います。A(ラ)→G(ソ)→G♭(orF#=半音下がり)→F(ファ)とい う黄金の下降進行の繰り返し。これは本当によくあるパターンです。これだけだったらここまで名曲にならないんだけど、印象的な主旋律が全体を引き上げると いう構造になってるのでしょう。あと、シンプルな和音の下降進行なんだけど、微妙に装飾音がついてくるので、陰影が掘られていく。


 実はこの曲、本当は12分くらいある長い曲なんだけど、最初の2分半くらいのメインメロディー(今回紹介している部分)のあとに延々とフリージャズとい うか、現代音楽みたいに難解なんだか、意味不明なんだかってパートが続きます。そのあたりはやっぱりわからないし、要らないんじゃないの?って気もしま す。現に、You TubeなどでMoonchildをUPしている人も殆どが後半分をカットしてます。このあたりが分かるようになったら面白いんだろうけど、まだまだ修行 が足りないです。
   

言葉・歌詞

 この曲、また歌詞がいいんですよ。
 僕としては、歌詞がこの曲の魅力の半分くらい占めて気がします。本当にきれいな英語で、うっとり、ほれぼれしますね。


Call her moonchild
Dancing in the shallows of a river
Lonely moonchild
Dreaming in the shadows of the willow

Talking to the trees of the cobweb strange
Sleeping on the steps of a fountain
Waving silver wands to the night-birds song
Waiting for the sun on the mountain

She's a moonchild
Gathering the flowers in a garden
Lovely moonchild
Drifting on the echoes of the hours

Sailing on the wind in a milk white gown
Dropping circle stones on a sun dial
Playing hide and seek with the ghosts of dawn
Waiting for a smile from a sun child



 中二病の頃は馬鹿だから英語なんかわからなかったけど、こっちに来てからふと歌詞を見つけて読んでガビーンとなりました。

 なにがって、このあふれんばかりの詩情。
 何がツボなのか?というと、小さな子供の頃に読んだ絵本や童話の世界で、そんな感覚すっかり忘れてたよて部分。

 まず「ムーンチャイルド」って何?誰?ってことですが、"she"って言ってるから女性で、まあエンゼルのような小さない女の子なんだろうなーって思わ れます。おそらくは、月の光の擬人化だと思われるのだけど、このお話の全体=月の子が、太陽の子を待っている」という発想がすごいなー、よくそんなこと 思いつくなと。

 夜明け前、月が傾く未明の頃。なにもかもが死に絶えたような静謐な世界で、ただただ月の光だけがそこかしこに射していて、それがまるで「月の娘」が無邪気に遊び回ってるかのように思えるって詩情。その娘は何を待ってるのかといえば、やがて山の上に登ってくる太陽の子(たぶん男の子)と微笑みを交わすのを 心待ちにしている。

 そこには寓話性もないし、なにかの比喩とかアナロジーとか、これにかこつけて風刺をするとか教訓めかしたことを言うとか、そういう部分が一切なくて、純粋の月光の世界の夢幻性を歌っている。

 それを歌詞で表現するわけですけど、これ、難しいですよー。そのまま解説的に描写したらぶち壊しのドッチラケですからね。庭や森や川のせせらぎ、カメラ がどんどん動いていくように視点を移しつつ、そこで無邪気に戯れている月の娘の姿を描いていく。そういうコンセプトが出来たとしても。今度は言葉選びが難 しい。

「浅いせせらぎで踊り」

「柳の木陰で夢をみる」

「夜の鳥の歌声にむかって銀の指揮棒を振り廻し」

「噴水の階段でうたたねをし」

「庭の花を摘み集め」

「ミルクホワイトのガウンをまとい風に乗る」

日時計の文字盤に石を置いて歩く」などなど。

 特に凄いなと思ったのは、
 Drifting on the echoes of the hours
 Talking to the trees of the cobweb strange
 Playing hide and seek with the ghosts of dawn

 

 で、無理に日本語訳にすると意味がなくなっちゃうようなデリケートな部分ですが、

 

 「echoes of the hours=時の残響を漂い」って、「時間のエコー」というとわかりにくいんだけど、英語原文からだったらなんとなく意味は分かる。特に未明の静かな時間帯というのは、時があるようで無いようで、その静かな世界に、時間が溶けて滲んでいくような感じ。それは時の刻みを感じているのか、あるいは時の残響がこだましてるのか、その淡い淡い時間感覚というのはわかる。そこをドリフト(漂流)するというのもまた分かる。

 

「蜘蛛の巣の不思議について木々と語り合い」

(ここはめちゃ難しくて、「不思議な蜘蛛の巣をまとった木々に話しかけ」の方が正解な気がする(Talking of the combweb strange to the treesにはしてないから。でも個人的には、蜘蛛の巣の不思議論を木々と語ってるイメージの方がキますけど)

 

「夜明けの精霊達とかくれんぼをする」 「ghosts of dawn」=夜明けの幽霊っていってしまうと違うと思うのだが、夜明け前って、一瞬この世ではなくなるよなときってあるでしょ。あまりにも静かで、なにもかもがひっそり沈んでるなか、この世ならざるもの、というか、この世界の本当の姿が浮上してくるような感じ。そこかしこで霊的なもの、妖精のよ うなもの達が見えてくる。そして、彼らとかくれんぼをする。なんという叙情的なイメージ。

 

 ってことだけど、文章の意味そのものよりも、言葉がもってる広がりや波紋をぶつけあって膨らませていくところが感覚が ポイントでしょう。

 そして、そんな妖精チックな月の娘が、”Waiting for a smile from a sun child”と待ち望んでいるわけで、この最後の最後にサン・チャイルドが出てくるところで、うわーと思ってしまいました。やられたーと(笑)。

 でも、なんでこんな童話や絵本のような世界がクるんだろう?何がそんなにいいんだろう?と不思議にも思います。これは、年を取ったほうがキますね。20代の頃とか、まだそんなに思わなかった。

 思うに、多分死期が迫ってきてるからじゃないかな?いや持病で死ぬとかじゃなくて、年をとるだけ算数的に死期は近づくという単純な話です。そして、だんだんまた大地に還っていくなら、ナチュラルにその準備も進むのだろう。「生まれる前の世界」を段々思い出していくというか。

 そして小さな子供って、ある意味では大人よりもはるかに死の世界に近いと思うですよ。だって、ついこないだまでこの世にいなかったんだから。彼らが、何をどれだけ覚えているのか知らないけど、少なくとも僕らがギトギトと脂ぎった固定観念で世界を塗りたくる前ですから、まだ本当の世界の姿が何の先入観もなく見えていたと思うのです。ゆえに、絵本とか童話世界とかが、大人の濁った視界よりもはるかに澄明に見えてたし、すっと入り込めたと思う。

 でも20-40歳くらいのバリバリやってる頃は、人為的なあれこれで夢中だから忘れてしまう。でも、年食ってくると、若い頃に重要に思えていた事柄も、 別にそんなに大したことではないってのが分かるようになる。だんだん固定観念の呪縛が解けてくる。それと同時に、「もうすぐ、あそこに帰るんだなー」とい うなんとはなしの準備みたいなものを心と身体がやりはじめるのかな。だから、より子供的な感覚に戻ってきて、絵本的な世界に感銘を受けるようにもなるのか もしれません。

 それは芸術的に高度だから、幻想的で夢幻的だからというよりも、むしろ真逆な理由。こっちの方がよりリアルだから、です。本当の世界って、こういうもんだろ?ってなんとなく分かる気がするので、より惹かれるのかもしれません。

ビジュアル・YouTubeの各作品

 この曲に全く欠落しているものがあります。ビジュアルです。音楽なんだから当たり前なんですけど。

 アート三大要素、サウンド、言葉に並んでビジュアルが来るのですが、この原曲をもとに世界の人達がYouTubeで絵をくっつけて作品化しています。

 まず、この歌詞世界を忠実に描いているのが、次の作品です。なぜか静止画像がアルバムジャケットになってますけど、本来の絵は手描きのいかにも絵本という絵です。


 次↓は、原曲だけではなく、カバーして自分らの世界を作ってます。Alifieという、たぶんフランスのバンドだと思いますが、まだまだ無名でほとんど検索しても出てきません。でも、ビジュアルも音もいいですよ。多分に冗長なきらいはあるけど、がんばれ~って感じ。


 次↓は、日本の方の作品のようです。メイン部分だけではなく完全12分全部載せてくれてます。最初のボーカルの部分は、ヴォカロイドではなく"AquesTone”というフリーのソフトを使っているそうです。

 

 

この地味な佳曲は、意外と世界的に好きな人が多いらしく、いろいろなところで使われているようです。

 例えば、”バッファロー66”というアメリカのB級(だと思うよ、人気はあるみたいだが)映画がありますが、ボーリング場で、突如、ヒロインがムーン・チャイルドをバックにタップダンスを踊るという、そこにどういう意味があるのか?というすごいシーンがありました。YouTubeにもあります

 

※これは、本家の今週の一枚エッセイ839を転載したものです。

 

 



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