オーストラリア/シドニーから。
APLAC/SYDNEYの別館。漫画紹介や趣味系の話をここにまとめて掲載します。

漫画紹介:[大塚英志×樹生ナト] とでんか~都市伝説から洗脳技術、「空気」は関東軍が開発した

 

 

[大塚英志×樹生ナト] とでんか

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大塚英志さんという人

 大塚英志さんって、昔から雑誌の編集やサブカル方面で論評とかやっておられる方で、今調べたらどっかの教授にまでなっておられるようです。もともと筑波大の学者一歩手前のイン テリさんだったんだけど、ジャーナリスティックな資質が勝った。食うためにあれこれ編集作業やらやっていうちに、その溢れんばかりの現場体験から出てきたカルチャーやビジネスについての評論は面白いです。

 

 この作品も、ご自身の評論集「おたく精神史」の17章に出て来る「ジャーナリズムと都市伝説」の試考の系統に属するものでしょう。「とでんか」の設定と本人の実話がかぶってるところが笑えます。たまたまこの本持ってるので載せます。すごい古いんですけど(初出は1997年まで遡る~でも20年前の論考が今でも通用するのが凄いのだが)

 

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宮田登先生とか出て来るし。

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 都市伝説や噂話をマーケティング的に、ひいては世論形成(洗脳)のためにどう活用するかってことも、目端のきいた連中は当然考えていた。f:id:aplac:20171222063837j:plain

 

 このあたりの社会学の本は面白いですよね。一過性の記事は幾ら読んでもあとに残らないけど、一つのテーマでまとめて読むと思考の核が出来るから時間労力コスパ的にお得。 ただ人によって全然切り口が違う(そこが面白いところでもあるし、一つの考えに染まらない利点でもある)。

 

 大塚さんの特質を考えてみるに、例えば宮台真司さんなんかも現場性が強いと言われるけど、でもアカデミズムの中では変わり種な程度で、軸足はアカデ ミックですよね。だから理論的にキャッチーなものをまとめあげるのは上手なんだけど、理論が先行している気がする。大塚さんの現場評論は、アカデミックの素養がありつつ、完全に現場に両足突っ込んでるだけにリアルです。リアルな分だけ、理論的にスッキリまとめあげられないんだけど、それだけに断片断片が鋭いように思います。このあたりがジャーナリスティックな資質なのかな。つまり、統一的なセオリー理論を作って学問的に完成度を上げていくよりも、より同時代的で、より鋭い感覚で、「あれ?これってどうなの?」って問題意識を提示する。

 

僕が思うに、ジャーナリズムというのは「解決」してはいけない。こういう問題っぽく見える事実がありますよ、という提示だけでいい。「そこはこう考えろ」とまで言うのは越権であって、それは読み手が考えること。

 

もっと評価されていい人だと思いますけどね、池上彰氏よりもはるかに鋭いことを言ってるんだから(てか、鋭いことを言わないで、敢えて全体の10%くらいにとどめてチラ出しするのが池上さんの凄さなんだと思うけど)。

 ただし、実験的に鋭い思考が多いだけに、この作品は、純粋の漫画作品としていうなら、ちょい疑問が残ります。ややもすると難しすぎるし、ストーリーの展開と収集のつけかたがこなれてないし、細かくて面白い ギャグが散りばめられているんだけど、整理されきってないというか。なにがなんだかわからんまま、わーっと進んでいくというか。

 民俗学社会学の仮説サスペンスっていう意味では「宗像教授シリーズ」と同じ系統かも しれないんだけど、漫画的なくすぐりが多すぎて逆にわかりにくくなってる気がします。「人面犬」とか「ダルマ男」という都市伝説のキャラクターがそのまま平然とレギュラーになるという。

 

 もっとも、これだけの複雑な思考を、ストーリーやキャラ設定というポップ要素をふんだんに取り入れて作品にまで仕上げていくのは生半可な腕力ではないでしょう。以前このブログで、コッペリオン」を紹介したときにも書きましたが、硬派な考察に軟派なポップ要素を強力に入れて、粘度をこね合わせるように作品を作り上げること、その知的難易度は、はっきりいって硬派考察だけの場合の何倍も難しいと思います。難しいことを難しく言うのは簡単なんですよね。思いきり離れた敷地にゼロから架空の物語を作りあげ、その中に栄養素だけ展開させていくというのは、考えただけで気が遠くなります。いわゆるアカデミックな人でこれが出来る人は殆どいないんじゃないかなー。

 

 とはいえ、この作品は、ストーリーを楽しむというよりも、「ふーん、そうなの?」「そんなん考えたことなかったわ」とジャーナリスティックに読むのがいいんでしょうね。逆に専門で社会学とかやってる人は、先端の論考読めばいいわけで、これはそういうのに関心や基礎素養がない人が、「ほほう」といいながら、えびせんでも食べるようにポリポリ食べるのがよいかと。

 

都市伝説と世論操作(洗脳)
 メインテーマは「都市伝説」ですけど、これと国家規模での洗脳(民意や世論の形成過程論)、それとネットやグーグルの検索システムとが絡み合ってます。 陰謀論とすれすれなんだけど、このくらいまでなら十分ありえると思います。時代的には今から数年から10年ほど古いので(第一巻が2009年)、連載当時はリアルタイムだった橋 下現象も今なら冷静に見えるかもしれないです。

 この領域は僕も(誰でも?)興味あるところで、なんか今の日本社会が嘘臭いんですよねー。本当にそうなの?という。それはメディアの腐敗とか、支持率の 捏造操作とかそんな可愛いレベルではなく、もっと根本的なところで。

 

 なんつか人類痴呆化計画というか、モノを考えさせないように巧妙にプログラミングさせ(れ)てい る感があって。昔っから疑問だったんですけど、石原慎太郎とか、なんであんなに人気あるのか?その後の橋下、安倍、今の小池百合子にしても、5秒も考えたらわかりそうなものなのに、なんで?って(これ書いたあとに小池さんは自爆しちゃったけど)。

 

 よく「賞味期限が切れた」とかいうけど、冗談ではなく、え、それ、本気で言ってんだ?という。そういう問題なのかよ。例えば、自分の親に対しては「賞味期限」とか言わないし、考えられない。そういう問題じゃないから。政治だって、何が一番合理的なのかというドライで知的で選択なのであって、キャラの新鮮味とか関係ないはず。でもやたらそんな感じで進んでいくし、また僕にもその感覚はわかるんですけど、それってやっぱアホでしょ。なぜなら論理的正誤ではなく、感覚的快不快が優越してるってことだし、優越してることに疑問すら持たなくなってる。1+1は2なんだけど、「2はもう飽きたから3にしようか」とか言ってるくらいケッタイな話なんだけど、そのおかしさにすら気づかない。


 閑話休題(それはさておき)、この作品、民俗学社会学のあれこれの知識、特ダネとかじゃなくて、その世界では当たり前に言われている理論や検証が漫画のあちこちに出てきて面白いです。

 以下断片的に面白そうな部分を抜書きしてみました。

 

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 都市伝説も、意図的に広められたり、噂やデマが広がる速度やパターンを検証して、大衆操作に使おうとか。

 ゲッペルス的な方法論は昔からやられ ているし、満州事変や関東軍が意識的にやってたとしても、陰謀というよりは、研究熱心・職務熱心とすら言えるくらいですね。

 

「空気を読む」の「空気」は実は満州関東軍が発案していた

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それは戦後も着々と流れていて、どんどん成功してるって気もする。

僕としては、民俗学の父である柳田国男 が、自分でモノを考えることが出来る国民を作るのが悲願であり、やっと普通選挙になったと思ったら感情にまかせて投票する人々をみて絶望したってくだりが 初耳で面白かったです。

 

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ネット工作員と低IQを狙う戦略

 昨今のネットでの工作員(政府からお 金もらって世論形成の書き込みをする一群の存在)なんか常識レベルで知っておくべきだし、むしろそれをやらなかったら政府の方が怠慢なくらいで(笑)。

 

 小泉時代の戦略はよく言われますけど、露骨に「頭が悪いやつ(低IQ)」を狙い撃つという戦略があったりなんかして。

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↑この人も「賞味期限」切れた感じですねー。ちなみに大阪都構想は、ほんとにそうなの?で自分で調べたことあるけど、かなりヤバいっすよ。二重政府解消どころか、府と特別区を調整する部局(これがデカくてコントロールしにくい)の三重行政になるだけだし、結局は調整部局というブラックボックスが入るから独裁しやすくなるだけだし。政策的にはならんでよかった。

もっとも、元大阪市民としては、期待する気持ちもわからんではない。現状のガチガチを粉砕するにはダイナマイトが必要だし、「爆薬に人格はいらない」ってことなのでしょうね。トランプと同じ感じなんすかね。

 

 

 今はもうネット世界ですから、そっち系の工作が芸術的なまでに高まってると思われます。

 まずはグーグルの立ち位置とか、検索アルゴリズムのいじくりかたとか、検索順位を操作することでどういう世論誘導(誤導)が出来るか、そのアルゴリ ズムはなにかって時代に来てると思います。西欧の世界でも、グーグルやFBへの締め付けが厳しくなってきてるし、いつ転んでも(既に転んでても)おかしく ないでしょう。

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エシュロンはよく言われますよね。今はメガデーターのマネジメントとしておおっぴらに言われるようになってきてるけど。

 

ネット社会と蜜蜂社会

Googleを思わせる組織の創立者が出てきて、そこでネット社会の理想=蜜蜂社会が語られる。5万匹もいるのに、誰もリーダーがいない、でも機能的に動いているという社会になればいいのに、という。

 

そこで、世界でいろいろ言われている「消えたミツバチ」話=蜂群崩壊症候群がひっつけらる。牽強付会というか、いや鋭い考察というか。

 

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蜜蜂型→電脳ネットワーク社会においては(今でいうならAI化)、多くの税金をカットできる。なぜなら、予算の約半分は公務員の給料に消えているからという指摘。算定根拠は論者によるけど。

税金その他は、来年からまた一段とキツくなるんだけど、結局は予算のうち「何を削るか」論でしょう。本来なら、ずっとこの話(予算の使い方論)ばっかやってても良さそうなものなんだけど、全然そうならないのは、そうなってもらったら困る人が沢山いるんでしょうねー。

 

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とかなんとかいってるうちに、

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ちなみにマイナンバーの普及率は全国で8%程度だったかな。実はほとんど誰もやってないという。



ご興味のあるむきはどうぞ。

 

本家エッセイ839に掲載したものをリライトして載せました。

  

参考:大塚仁志氏の著作

 

 



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